いっそ

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季節は十一月に入り、まだ秋のはずなのに冬のように寒く感じる。 きっといじめられているせいだろう。 いじめられたって全然いいって、心の中に言い聞かせてるけど、いつまで持てるかどうかはわからない。 そんな孤独の中で、私を支えてくれているのは、美華吏の優しすぎる心だけ。 彼はいつも私のことを心配してくれて、最近では迷惑なんじゃないかって思うときもある。 けれど助けてくれる人が誰もいないよりかは何倍もましでいつの間にか彼の優しすぎる心に頼ってばかりいた。 今日は雨がざあざあと降っていた。さしていた傘もずぶ濡れで、おまけに風も吹いているからか今にも飛びそう。 私は傘の持ち手を強く握り、風に耐えながらも重たい足を動かして学校へ向かう。 朝食を食べていないからか、胃はからっぽだ。 寝坊したわけではないのだけれどここ一週間、ごはんが喉を通らないし、彩りがよくても何の意味もないように食欲はでてこない。 そして味すらも感じない。私が今、この世に本当に生きているのかわからなくなるぐらいだ。 ため息をついてから教室に入る。最近は周りの景色を見るのも、他人の話し声を聞くのも嫌になってきて、校則を無視して長くした前髪で視界を遮断し、本を読んで現実逃避ばかりしている。 体育の時にはさすがに本を読むわけにもいかないので、保健室に逃げてベッドでごろごろしている。 時々浜崎先生とかに心配されることもあるけれど、大丈夫だって自分に言い聞かせるように伝えていた。 その日の放課後。委員の仕事で図書室へ向かった。 すると、静まりかえっている図書室に美華吏だけがいた。 美華吏は浮かない顔をして、窓から見える夕焼けをぼんやりと眺めている。 勉強会はとっくに終わっているのにどうしているのだろうか。 そんな疑問を抱きながらカウンターの方へ行こうとする。 「なぁ、清加。本当に大丈夫か?」 美華吏は心配しているような顔でそう言った。 二人きりになる度、この言葉をいつも聞いているような気がする。 相変わらず苛立つけれど、やっぱり心底嬉しいと思っている自分がいて、それでも辛いっていうことは言えなくて、心の中では絶望の涙が溢れてくるばかりだ。 私はそんな気持ちを振り払うようににこりと笑っていつものように「大丈夫」と返す。 美華吏と私は正反対。だから話したって私の心がわかるわけない。 それに心配させたくないし、迷惑もかけたくない。 だからこれからも美華吏の前では明るく振る舞っていよう。 そう改めて心の中で誓った。 「素直じゃねぇな。清加は。本当は辛いんだろ?」 そう言って美華吏は私の体を背後から温かく包んでくる。 予想外の展開に私は状況が呑み込めずにいた。 ドクドクとなる心臓の音が耳にまで聞こえてくる。 いけない。いけない。このままでは本音を明かしてしまいそう。
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