第三章 何もなかったはず

7/7
前へ
/79ページ
次へ
その夜、私は不思議な夢を見た。 小四ぐらいの身長の私と、同じくらいの少年がいた。 周りの景色はというと、薄いピンク色の花びらを咲かせた花が一面に広がっていた。 なんだか懐かしい感じがする。でも思い出せない。この花の名前すらも。 そして少年の顔はというと、白いぼやっとしたのがかかっていて、何も見えない。でも体つきからして、誰かと似ているような気がする。 少年がなにかを呟く。でもその声はあまりにも小さすぎて聞こえない。 「ねぇ、なんて言ったの?」 私の声に少年は動じず、空を眺めていた。 私はそのことをなんとか頭の中で受け流してから、少年と同じように空を眺める。 空は灰汁を掻き回したような夕立色の曇天だった。 なぜ周りの景色は薄いピンク色の花で鮮やかに染まっているのに空は快晴ではないのだろう。なんでもないことのはずなのに、不思議に思えた。 この花の名前はなんだろうか。 この少年は誰なのだろうか。 そしてこんな美しい景色があるのは、どこなのだろうか。 その答えは見つからなかった。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加