第四章 空白

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学校に入れば、桜の大木が並立している道がすぐにある。桜の花びらはすでに散りきっていて、誰もが桜の大木であったことを忘れたかのように、葉っぱばかりになっていた。 「おはよー清加ちゃん」 「よっす!清加」 教室に入ればそんな声が聞こえてきた。私は反射的に挨拶を返す。そして自分の席に着いた。 黒板にはいつも通り担任からの挨拶の言葉が白いチョークで書かれていて、その字はパソコンで打ち込んだ字のようにとてもきれいだ。幼い頃に習字を習っていた影響があるんだそう。 その挨拶の終わりにはいつもこう書かれている。 『糸湊さん、今日もクラスのみんなをよろしくね』 私はその字を見て微笑む。まるで私の方が先生なのかと、思ってしまうほどだ。 小二の頃から学級委員をやっていて、頼りがいがあったからか、いつしかこうなっていた。 「清加ちゃん、ちょっと聞いてよー。この前うちのクラスの…………」 そう言ってあるクラスメイトが愚痴を話してくる。 私は相づちをうちながら話を聞く。 「それはさんざんだったね」 そのクラスメイトが話終えるのと同時に私はそう言った。 このように愚痴を聞くことも、毎日のようにある。別に嫌とかめんどくさいとかは思わない。 人間はいろいろ溜め込むといつかは壊れるって、わかっているからしているだけだ。 授業の始まりを告げるチャイムが先生の登場と共に鳴る。 私は席に着き、国語の教科書の適当なページを開いて机の上に置く。それから「起立」とみんなに号令をかけた。 これは学級委員の仕事の一つだ。他にも出席簿の管理や授業が終わったら黒板を消す、あとは放課後は戸締まりをしっかり行い、鍵を閉め職員室にそれを返す。それぐらいだ。 最初は忘れることもあったけれど、今じゃ日々のルーティーンになっている。 「じゃあさっそくだけど、この前やった一学期漢字テストを返します。では、出席番号順に取りに来て」 号令が終わり、みんなが席に着いたのを見て先生はそう言った。 それと同時にクラスメイトが、ぞろぞろと立ち上がり始める。私も席を立ち、教卓の方へ行った。 「はい、糸湊さん。今回もいい成績よ。さすが学級委員ね」 にこにことしながら先生はテストを私に返してくれた。私は笑顔でそれを受け取り、自分の席に戻りながら点数を見る。 結果はほぼ満点と言っても過言ではない、九十八点だった。私は小さくガッツポーズをしながら席に着く。 私のテストの成績はどの教科も同じぐらいだ。つまりいつも九割は点数がとれているということ。そのおかげで先生からも私の評判はいい。家に帰っても母に褒められるばかりだ。 先生は全員分のテストを返し終わり、一つため息をついてからこう言った。
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