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翌朝。珍しくいつもより、早くに目が覚めた。 ゆっくりと起き上がりベッドから出て、一階へと行く。キッチンから包丁で野菜を切る音が聞こえた。 小四の頃の私を思い出すことができたのなら、包丁に対する震えにも打ち勝たなくてはいけない。そうしないと、料理は永遠できないままだろう。 「おはよー母さん。私にも野菜切らせて」 「あら早いわね。じゃあ人参切ってみる?」 そう言って母は包丁をまな板の上に置き、私を手招きする。 私は軽やかな足取りでキッチンへ行った。そして包丁を持とうとすると、またもや恐怖が込み上げてきた。 私はこのままではいけない。いい加減変わらなくちゃ。大丈夫。私は本気になればやれるんだから。きっと失敗したりしない。 呼吸をひとつし、それから包丁で人参をゆっくりゆっくり千切りにしていく。切れば切るほど震えは収まってきて、不思議に思った。 「久しぶりにしては上出来よ」 朝食と弁当を作り終わった時に母はそう言った。 確かに上出来だとは思う。でもまだまだこれからが大事だと思ったので、「そう?」と曖昧に返した。 「そうよ。やっぱり料理の才能あるわね」 母はそう言ってふふっと笑いを零した。 とはいえ、作ったものといえば、卵焼きときんぴらごぼうなどという、小学生では普通に作れそうな料理ばかりだ。これではまだ、才能あるとは言えないだろう。 席につき、朝食を食べ始める。自分で作ったからなのか、その分おいしく感じた。 それから身支度をし、家を出た。 すると、私は突如として目を見張った。 目の前には肩に鞄をかけた、陽果と七生がいたからだ。 「おはよー清加」 「久しぶりにこういうのもいいかなって来ちゃった」 二人は呑気そうに挨拶してくる。二人と登校するのはいつぶりだろうか。あの頃以来ぐらいの、懐かしい感じがする。 私は機嫌良さそうに挨拶を返し、三人揃って通学路を歩き始めた。 「てか、寒くない?」 陽果がそう言いながら手を震わせる。 「もう十一月下旬だもんね」 七生はわかるわかると頷きながらそう言った。 もうそんなに時が経ったのか。美華吏が転校してきた十月中旬は、たったの一ヶ月前のはずなのに、すでに遠い思い出のよう。
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