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思えば最初は、私の心を見透かしてきたような言葉を言ってくるもんだから、心臓が口から飛び足すかと思った。 あれからいじめが起こって、自己嫌悪な私は弱くて、早々に自殺しようとしていた。 そんな私を助けてくれて、長所を教えてくれた美華吏。母が教えてくれた、私の中の空白であった記憶を思い出せた今なら、私に大切なことを教えてくれようとしてくれていたことがわかる。 私は佳奈達にいじめられて、本当におかしな話だけど、よかったって改めて思った。 それはさておき、陽果と七生も私が記憶喪失だったことを知っているのだろうか。いや、知っていたとしても覚えてくれているのだろうか。答えはわからない。けれど、二人は小学校から一番仲良しだった幼なじみ。きっと知っているだろう。 「私ね、思い出したの」 私はぽつりと呟くようにそう言った。 「それって……記憶のこと?」 七生はきょとんとした顔から、信じられないとでも言うような顔に、ころっと変えながらそういった。 そのことに心底、胸を撫でおろす。 「あっ!小四の頃、頭打って記憶なくしちゃったこと?」 陽果は七生の言葉を聞いて、思い出したように大きな声で言った。 「しっ!近所に聞こえちゃうじゃない。本当、天然なんだから」 七生は怒った顔でそう言った。 あの頃の記憶を思い出して、今と比べてみても、相変わらず二人は変わらない。二人らしい反応だと思った。 そのことに思わず、噴き出してしまう。だけど二人は何も動じなかったので内心ほっとした。 「大変だったんだからねー。先生からも母からも清加には言うなって、口止めされてたんだから」 七生はぶっきらぼうにそう言って、口をとがらした。 陽果もその声に、そうそうとでもいうように頷いている。 確かに口止めされて、五年も黙っておくのはとても大変だ。するりと口に出してしまいそうで、怖かった時もあっただろう。 「ごめんね。なかなか思い出せなくて」 「じゃあ、あの頃のクラスメイトにも伝えておくね」 陽果はふるふると首を振りながら言った。 「佳奈もそのひとりよ」 七生はぶっきらぼうにそういった。 佳奈も私が記憶喪失だったことを知っていたなら、私があの頃の記憶をなかなか思い出せなくて、ムカついたこともあったんだろう。 「ということは……夢は見つかった?」 陽果は目をずっと封印されていた、宝箱を見つけた子どものように、キラキラさせてそう言った。
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