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「うん!数学の先生」 私は反射的にそう答えた。 できれば、クラスの担任とかもやってみたいな。猫の手も借りたいくらい忙しいだろうけど。 「だよねー。そう言うと思った」 七生は安心したような笑みを浮かべる。 私はふいに思う。前に二人が行く高校は聞いたけど、夢は聞いていない。 七生は真面目だから、私と一緒で先生を目指しそう。その一方で、陽果は天然だから、目指す夢も想像ができないな。 「二人の夢は何?」 「私は国語の先生」 七生は躊躇いもなく、そう言った。 確かに七生は国語のテストで、毎回のように満点をとっている。ならば国語の先生になる夢が、未来で叶っていたとしても、おかしくはない。 「私はまだ決まってないや」 陽果は夢がある私達を、羨ましがるように言った。 夢は人それぞれだ。それに私達はまだ十五才。見つけれていなくてもおかしくはない。 「ゆっくりでいいんじゃないかな。まだ時間はあるし」 「ま、あっという間だけどね」 七生は苦笑いをしながら言った。 当たり前のようにこの中学校生活も、いよいよ大詰めを迎えようとしている。今更進路を決めた私は、焦らなければいけない存在だ。 「そういえば美華吏とはどうなのよ」 ふいに思い出したように、陽果は言う。 「ど、どうなのって……」 いきなりのことに戸惑いを隠せない。 「昨日も一緒に登校してたよね?なんかあったの?」 「聞かせて聞かせて」 二人は目をキラキラさせて、食い入るように聞いてきた。 もしかしてこれって……恋バナというやつ? もちろん私は恋愛未経験者だから自分から話すことはなかった。七生や陽果の恋バナは聞いたことある。めんどくさがりだったから、恋愛とか興味なくて、棒読みに答えてたけれど。 ついさっき美華吏という名前を聞いただけで、胸が締め付けられるような感覚がした。ということは私は美華吏に恋をしているのではないか。 いや、そんなわけない。元々恋心なんてどんなのか知らないし、受験生なんだからそんな余裕あるわけない。 それはさておき、自殺しようとしていたら助けられたというのを話す気にはなれない。 避けられたって幼なじみというのには変わりないから気が重い。 「秘密」 私がそう言うと、二人はつまらないような顔をしてすかさず話題を変えた。 躊躇いがあったからか、安堵のため息をつく。 そのあとは笑いあったりしながら話をした。こんなに楽しい気分でいられる朝は久しぶりだ。きっと陽果と七生がいるからだろう。 空を見れば、家を出る時は雲の奥に月光の気配がわずかにうかがえるような曇り空だったのに、いつの間にか雲ひとつない晴天になっていた。
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