第一章 私は私が大嫌い

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「今から進路希望調査表を配ります。今週中に提出してください」 帰りの会。浜崎先生はそう言って、進路希望調査表をみんなに配る。 私はその言葉を聞いて机にうつ伏せになった。 私には長所もないし、やりたいことすらもない。だからもちろん、夢もない。ということで私はいまだに進路が決まってないのである。 みんなが次々に進路を決めていく中、私はまだ決まらなくてまるで散ることができなかった枯れ葉のように置いていかれているのだ。 正直、焦ってはいる。いい加減決めなくちゃって。 私はそう思いながらため息をついた。 放課後は陽果と七生とで行きたい高校の話をしながら帰路を歩いた。すでに二人は進路が決まっていて、私の焦りも増す。 正直、高校なんて行く意味はないと思う。自身の未来の役に立つなんて到底思えないし。でも、行った方が就職の時に少しは楽になるって母は言ってた。だからいい加減決めなきゃいけない。わかってる。わかってるけれど。 私はまたひとつため息をついた。 家に帰ってみれば母がキッチンで夕食の里芋コロッケを作っていた。 「ただいま」 私はそう言いながらダイニングテーブルの上に進路希望調査表を静かに置く。 「おかえり、清加」 母は里芋コロッケを油で揚げながら言った。 「それって進路希望調査表でしょ?」 私は目を丸くした。そのコロッケを揚げながらでも視界に入ってしまうのが何より不思議なことだと思った。 きっとまた怒られるんだろうな。 私は心の中でため息をつく。 「あんたさ、高校行く気はあんの?」 母はこんな私にうんざりしているような口調で言った。 「それは……」 ない。でもそう言ってしまえば、もっとこぴっどく叱られそうで私は口をつぐむ。 「まだ決まってないのね?いい加減決めなさい!何かやりたいこととかないの?」 母は今の私の態度で怒りが増したらしく、声の大きさも増す。 やりたいことと言っても何もない。そもそも、好きなものが読書以外、なにもない。一つもないよりかはましかもしれない。けれどそのせいで私は夢もやりたいことも見つからない。だから進路も決まらない。そんな私が大嫌い。 私は慣れているはずの母の怒りの声にいまだに怯えながらも、本当のことを言わないとって口を開く。 「ない」
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