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「久しぶり。母さん」
美華吏は花開くような笑みを浮かべる。
こんな感動の場に私がいていいのだろうか。咄嗟に申し訳なくなった。だけど、逃げるところもないし、ここにいるしかないだろう。
「清加ー。言ってくれたらよかったのに。どうりで宇高っていう名字、聞いたことあるなと思ってた」
母は口を尖らせながら言う。
言えるわけがない。二時間前に思い出してここまで走っていたのだから。
「だってー」
「まぁ仕方ないわよね。記憶喪失で忘れてしまっていたこともあるかもしれないし」
いや、あった。私は記憶喪失のせいで美華吏のことを忘れていた。怖がりな優等生の私を支えてくれていた大切な家族の一人、だったのに。
「今日はうちで泊まっていきなさい。父には私から言っておくわ」
そう言って母は林の方へ戻ろうとする。
「それが実は……」
美華吏はそう言って母に父が流行り病で亡くなったことを伝えた。
帰ったら夜ご飯に何を作ろうか。肌寒いからシチューとかどうだろうか。いや、もしくは美華吏の大好物の方が喜ぶのではないか。てか何を考えてるんだ。気をしっかりもて私。血が繋がってたのだから恥ずかしくなるな。
私は首をぶるぶると振って気を取り直す。
確か美華吏の大好物は私と同じ唐揚げ。さっぱり柔らかな鶏ささみで作っていて、脂濃さとレモン汁の甘酸っぱさが上手く絡み合っている唐揚げだ。
揚げ物は久しぶりだから上手くできるかわからないけれど、やってみる価値はある。
「それなら早く言ってよーもう。これからよろしくね。美華吏」
どうやら美華吏の話は終わったらしく、母が握手と手を差し出している。
「よろしくお願いします。ほら、清加も」
私は一瞬戸惑う。握手とか美華吏がいるからか恥ずかしく感じる。だけど母もしてるし、一緒にならいいだろう。
それに私達は一度生き別れたけれど、こうやって再会できた家族。まだこれからどうなるのかわからないけれど楽しく暮らせていけるような気がする。
「改めてよろしくね。美華吏」
そう言って私達は手を取りそれから微笑を浮かべて同時に手を離した。
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