"あの場所"

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翌日の昼休み。空は雲ひとつない青空が果てしなく広がっていて、風も心地いいほどに吹いている。私達は中庭の芝生の上でお弁当を食べていた。 「じゃあ、今度こそすべて思い出したのね」 七生は私の昨日の話を聞いて、厚焼き卵を頬張りながら言った。 「兄のこと、全然口に出さなくなってたからわざとそうしてるのかと思ってた」 陽果はすっきりとした笑顔を浮かべながら言う。 確かにもし覚えていたままだったら、臆病な私のことなので美華吏と離れてしまった悲しみや寂しさを思い出したりしないよう、そういうことをしていたかもしれない。 「ま、臆病な清加のことだからあるかもな」 美華吏はそう言いながら、昨日の残りの唐揚げを美味しそうに一つ食べる。 私がそれに苦笑いをしていると、 「あの、ちょっといいですか?」 後ろからそう声をかけられて振り替える。 咄嗟に私は息を飲んだ。そこには美華吏のことが好きで少し前までは、私の鞄や上履きや筆箱を毎日のように盗んでいた、佳奈がいたからだ。 七生と陽果がそのいじめを止めてくれた時には、こんなことしてる自分がバカだったとか言っていたけれど、今頃にまた話にきたということは何かがあるのだろうか。 「記憶、思い出したんだよね?」 佳奈は確認するように聞いてくる。 佳奈は私が記憶喪失になる前も同級生であり、よく愚痴を聞いていた。バスケが得意でよく部長を頼まれていた。 私はゆっくりと頷く。 「そのことなんだけどね、実はその……いじめは美華吏君のことが好きでやってたわけじゃないの」 私は思わぬ言葉に目を見開いた。 その一方で、美華吏は俺のこと好きだったの?って言ってそうな顔をしている。どうやら初耳だったようだ。 好きでなかったのなら、どういう理由で私をいじめたのだろうか。いじめが悪いことであるのに変わりはないが、理由は知りたい。 まさか……。 「作戦だったの。清加ちゃんに記憶を思い出させるための。本当にごめん!」 そう言って佳奈は頭を下げた。 確かに私はいじめと美華吏と母のおかげで記憶を取り戻すことができた。でも作戦だったとはいえ、いじめというのは度が過ぎていると思う。 「もう佳奈ったら無茶苦茶だよ」 「いきなり避けろとか言われて動揺したよ」 陽果と七生は笑いながらそう言っている。 確かに佳奈は意外なアイディアを思い付くことが多い。今回のは過剰だったけれど、それが美華吏と母がいたことで、うまい具合にいったようだ。 「ありがとね。思い出させてくれて。これからまた、よろしくね」 私はそう言って無理矢理笑顔を作った。 「ごめんね。これからもよろしく」 苦笑いを浮かべながら佳奈はそう言い、私達のもとを去っていった。
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