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「気をつけろよ! さっきだってユンベルトの名前出さなきゃ危なかったんだからな!」
βにとってαは脅威でしかない。αに何をされてもβは文句を言えない。弁解の余地もなく、βが全て悪いことになる。殴られても物を奪われても――強姦されても。だから、出来るだけ関わりを持たないよう、波風を立てないようにしている。
「エイク!」
工場の出入り口で、立派な体躯の、軍服に身を包んでいる青年が手を挙げた。精悍な顔つきだが少し垂れ目で柔らかな雰囲気を持つ。彼は俺の無二の親友でαのユンベルトだ。
オリヴァーは俺の肩をポンと叩いて「じゃあな」と去っていく。彼も、αとは関わりたくないのだ。それが、βの当然の反応。でも、俺は記憶が無いことでαへの興味があった。そのせいで嫌な目にも遭ったが、それが今の俺とユンベルト――ユンとの関係を繋いでいる。
「どうしたんだよ、その服!」
「今日は入隊式の予行練習だったから、本番通りに軍服を着て行なったんだ」
新品の軍服に袖を通して、少し照れ臭そうにするユンの腕を軽く小突いて、「似合ってるよ」と言うと、嬉しそうに「ありがとう」と言って笑った。
「行こう」と促して歩き出すと、周囲にいたβが慌てて道の端に寄る。それを見てユンは困ったように笑った。
身長が一九〇ほどあるユンに対して、俺は一七〇くらい――正確な背丈は測ると絶望するので知らない――だから、顔を見る時はいつも見上げる形になる。
ユンは特別技能研修校でも随一の身体能力を持つエリート中のエリートだ。正直並みのαが数人がかりで掛かっても押さえられるかどうかというレベルで、それは出会った当初からそうだった。
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