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 非力な自分を呪いながら、諦めて目を瞑った、その瞬間。急に周りが騒がしくなって目を開けると、目の前にいた少年が空を飛んでいた。そして俺の後ろの塀に激突した後、転がって動かなくなった。  呆然と辺りを見ると、俺を取り囲んでいた少年たちが肩を押さえて芝生の上に転がって悶絶していた。さっき俺の前に立っていた少年よりも更に頭一つ大きな少年が、次々に投げ飛ばしていたのだ。 「大丈夫?」  そう言って手を差し伸べた黒髪の少年は、俺の顔を見て気遣うような視線を向けた。この少年もαだ。けれど、こんなに柔らかい雰囲気を持った奴に会ったことは無かった。  俺が恐る恐る手を取ると、少年は優しく俺を引っ張って立ち上がらせる。が、急に顔を逸らして「ず、ズボンが」と言い淀む。  ハッとして下半身を見ると、脱がされかけていたので起き上がった勢いでストンと下まで降りてしまい、パンツ一枚の状態になっていた。慌ててズボンを持ち上げてチャックを締める。 「大変だ、先生が来る! 急いでっ!」  大人ほどに大きな少年は俺の手を取り走り出した。俺はその後ろから必死についていくと、裏手の門の前に辿り着いた。 「ごめん、ちょっと触るね」  そう言うと、少年は俺を軽々と塀のてっぺんに手が届くところまで担ぎ上げる。俺は塀の縁を掴み、そしてそのまま反対側へ飛び降りた。 「……ありがとう。助けてくれて」  鉄格子の門の向こうから、少年を振り返る。少年は優しく微笑んで、「さあ、早く行った方がいいよ」と言う。少し門から駆け出した後、立ち止まり振り返った。 「俺、エイク! お前は?」 「僕は……ユンベルト。ユンベルト・フォルスター」
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