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 はにかむように笑むユンを見た時、胸が高鳴るのを感じた。俺は大きく手を振った後、全速力で自分の居住区まで逃げ帰った。  その後俺は学校を抜け出していたので、こっぴどく先生に怒られたものの、αの居住区に入ったことはバレずに済んだようで、それ以上のお咎めは無かった。  でもその次の日、俺はユンにまた会いたいと思って学校を抜け出して、αの居住区に入らないギリギリの辺りをうろついた。βである俺にユンが会いたいと思う訳がない――そう気付いたのは、日が傾きかけた頃だった。 「エイク!」  帰ろうとしていた俺の背後から、声がして振り返ると、ユンが手を振りながら駆け寄ってきていた。 「良かった、また君に会えて。あの後何かあったんじゃないかって、心配してたんだ」  そう言って頬に貼り付けられていたガーゼを見て、「まだ痛む?」と気遣うように頬に触れた。顔が熱くなるのを感じて、俺は一歩後ろに下がり、首を大きく横に振る。 「ユンこそ、怒られたんじゃないか?」 「僕は……反省文を書かされたけど、それだけだよ。遊んでたらやり過ぎて、全員の肩を脱臼させてしまいました。ごめんなさい、って」  そう言って笑うユンは、少し変な奴だと思ったけれど、肩を脱臼させられても仕方ない奴らだったから、一緒になって笑った。 「なあ、俺でもユンみたいに相手を投げ飛ばせる?」 「うん、あれは体格は関係ないんだ。コツがいるけどね。どうして?」 「今度危ない目に遭いそうになった時には、自分で倒せるようになりたいんだ。またユンが運良く助けに来てくれるわけじゃないし」  ユンは真っ黒な瞳でじっと見詰めた後、「そうだね」と頷いた。
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