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ユンの肩を小突く。本当は――泣きたいくらい辛いけれど。そんな弱い所を、こいつだけには見せたくなかった。
「……うん、エイクにはオリヴァーが居るから」
「は?」
急にオリヴァーの名前が出て驚いてユンの顔を覗き込むと、一瞬寂しそうな表情をしているように見えた。
「これ新商品なんだよ。サラミ味だって。食べてみようよ」
そう言って子供のような笑顔を見せて、近くにあったスナックの袋を開封する。俺はユンに言われるまま、スナックを口に放り込んだ。人工肉のサラミよりも、サラミ味の方が味が濃くて美味しい。
「ビールに合いそうだな」
「じゃあ、ビール飲もうか。冷えてないけど」
冷蔵庫はなかなか捨てられないし電気を消費し過ぎるので、この秘密基地には置いていない。流石に地下電線からくすねたら、ここがバレてしまう。冷えたビールが飲めない、それがこの場所で唯一残念なところだ。
「温くても美味い!」
早速ビールをプラボトルのまま飲む。ビールもやはりαにしか支給されていないものだから、質が全く違う。
「今日は目一杯飲もうぜ!」
「ははっ、そうだね!」
――俺達が会うのは、今日で最後かもしれない。そんなことを考えそうになる度に、酒を煽った。昔話をして、笑い転げて、ずっとこの時間が永遠に続くような気さえするほど、楽しかった。
気が付くと、俺はユンの膝を枕にして眠っていた。ちょっと浮かれて飲み過ぎたようだ。
身体を起こすと、ユンも静かに目を閉じていた。じっとその横顔を見詰める。
「ユン」
声を掛けたが、呼吸音以外は何も聞こえない。外はすっかり太陽光が消されて、夜になっている。ユンは眠っているようだ。
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