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「僕は準備があるから、もう行くよ」
「……ああ」
去っていくユンの背中を見詰める。縋り付いて行くなと言えたら、どれだけ良かっただろう。
「ユン! 頑張れよ!」
振り返った彼に、俺は言いたいことの全てを押し殺して、そう言った。ユンは微笑んで「エイクも!」と手を振った。これが、ユンとの最後の会話だ。そう思うとまた泣きそうになって、俺はすぐに視線を逸らした。
その後片付けもそこそこに、一度家に帰って作業着に着替えようと秘密基地を出た。一応途中で誰にも会わないように注意をする。
古びたマンションのワンルームの三階に着く。小さな部屋だが、衣服と食料以外のほとんどの荷物は秘密基地にあるのでこれで充分だ。
シャワーを浴び下着を取り替え、作業着に袖を通す。夜からまた仕事だから、入隊式が終わったらそのまま工場に向かえるようにと工具を腰ベルトに通した。
家を出てαの居住区に向かって歩き出してしばらくして、誰かにつけられていることに気付いた。角を急に曲がったり立ち止まった時の動きを見るに、完全な素人なので軍人では無さそうだ。恐らく可笑しな気を起こした奴だろう。
相手の注意が一瞬外れた隙をついて全速力で走った後、突き当りを曲がった所で相手を待つ。と、金髪の大柄な男が俺の目の前に飛び出してきて、俺は相手の動きが止まった一瞬で腕を掴み、ユン直伝の技で男を投げ飛ばした。ついでに肩を脱臼させて。
「一生地面でオナってろ! クソ豚野郎ッ!」
こんな日に俺に目を付けたのが運の尽きだ。俺は苛立ちをぶつけるように男の顔面を蹴り上げた。それが運悪く顎にクリーンヒットしたらしく、男は気を失ってしまった。
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