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⑥
深く溜息を吐いて、俺は予定通りのルートで施設に向かい、αの居住区に少し入ったところにある施設へビルの屋根を使って侵入した。本来なら居住区に近付いた時点で軍人にマークされるが、俺は偽装しているので彼らの巡回の時間さえ避ければ簡単にここまで来れる。科学の力を信用し過ぎたための怠慢と言えるかもしれない。
俺は予定通り塀の向こうにある木の影に隠れた。そこから、縦横全くのずれもなく整列している軍服の、身体の大きな男たちの姿が見えた。その中から背の高い黒髪の男を見つけた。遠くからでも分かる。ユンだ。
「これより、第一三六期士官・入隊式を始める! 敬礼!」
号令に合わせて男たちが一糸乱れぬ動きで敬礼のポーズを取ると、奥に見える壇上にテレビでしか観たことのない軍部のトップである総帥が現れた。確か七十歳を超えているはずだが、銀髪なだけで遠目に見ても肉体的には全く衰えているようには見えない。
その後ろから真っ黒のドレスを着て、顔をベールで覆った人物が現れた。そして総帥の隣に寄り添うように立つ。その瞬間、周囲の空気が変わるのが分かった。
──彼女だ。この世界を唯一治めることを許された、唯一の「女性」で「女王」の、オフィーリア。
どういう原理なのか俺には分からない。殺人ウイルスによって、この世全ての女性は失われたはずだ。それなのに、「女王」が今のこの瞬間まで生存し、統治し続けている。
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