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 彼女は、第六九代目の女王。女王は歴代総帥の妻でもある。実質権力を握っているのは軍部というわけだ。その構造を成り立たせるための象徴として、女王が存在しているのだ。  初めてテレビで見た時、男が偽装しているのではと疑ったが、身体つきが丸みを帯びているし、胸の辺りが膨らんで見える。更に過去、女王の世話係をしていたΩが、「彼女には男性器が無く、股の間にあったのは割れ目だけだった」と証言している。その形などを明瞭に描写した彼の証言と古い文献にあった女性器について書かれた特徴が一致していることから、世話係の証言は真実だと決定づけられた。つまり女王は、紛れもなく「女性」なのだ。  総帥が軍人の心得を説く間、これから士官となる者達の多くは彼女に気を取られているようだった。ユンはどうだろうかと思ったが、表情までは窺えなかった。俺も小さくしか見えないが、彼女をじっと見つめた。 「──では、最後にオフィーリア女王から、激励の歌を御贈り頂く! 一同、胸に手を!」  歌? 女王の声など聞いたことも見たことも無いのに、歌だと──?  気付くと壇上の周りに、何度もテレビで見たことのあるΩが整列していた。その中にはオリヴァーが好きだと言っていた二コラの姿もある。  今まで静かだった男たちがあまりの状況にざわついたが、「静粛に!」の声と女王が壇上の中央に立つのを見てしんと静まり返った。そして、女王が両手を組み、天を仰ぐ。 「──アア」  どんな歌か、声か、そんなことを認識する前に、彼女の一声を聞いた瞬間頭を殴られたような衝撃を受けてその場に座り込んだ。
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