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 俺を抱えて全力で走って、塀を越えてまた走り出す。何が起きているのかは全く理解できなかったが、ただ俺を抱えて走っているのがユンだという事実が、嬉しくて堪らなかった。 「ごめん、僕もよく分からないんだけど、どうか聞いて欲しい。僕は今、君をΩだと認識している」 「俺が……Ω……?」  あの女王の歌を聴いた瞬間に、身体に異変が起こったことは覚えている。しかし、俺がΩだとはどういうことだ? 「君に起こっているその体調の変化は発情期によるものだ。そして僕は……今君を犯したくて仕方ない状態にある」  荒い呼吸を繰り返すユンをぼうっとした頭で見詰める。街を駆け抜けながら、苦しそうにしているのは、俺を抱えて走っているからだけではないのだと気付いた。 「今こうして君を抱えて走っていられるのは、他のαに盗られないためだと自分に暗示をかけて本能を騙しているからできている。だから、きっと目的の場所まで辿り着いたら……きっと君を……」  目的の場所――恐らく誰にも知られていない、俺達の秘密基地だ。ユンはそこに向かおうとしているのだ。 「お願いだ、どうか僕を……どんな形でもいい。止めてくれ……!」  ユンの悲痛な声に胸が締め付けられる。発情期のΩを前にしたαの性衝動は、発情期を止められないのと同じくらい強いものだと聞く。もし俺が本当にΩで、今発情期の状態にあるなら、ユンがどれほどの精神力で耐えているか知れない。本当なら、あの男のようにあの場で俺を犯したって可笑しくなかったのだ。 「……つけられた、時のために……軍人の、電流棒を真似たのを、作って置いてある……」
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