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 どこの工程で作られた電子回路なのか、部品一つ一つに付された製造番号を確認する。確認が終わればまた元通りの場所に戻す。  一番深いところの部品の確認が終わると、工具入れにいつも常備している自作の測定器兼発信器を取り付けて元通りに戻した。こうしておけば、城のどの辺りに付けられたのか追跡できるし、用途も測定値からより分かるようになる。  こんなことをして大丈夫なのかと聞かれれば、勿論発覚すれば城への背任行為、内乱罪で即刻死刑だ。  何故そんなことをするのかと問われたら、「ただの趣味」としか言いようがないのだが、俺はこの世界の全てを死ぬまでに把握したいという欲求が誰よりも強い。  その根幹には、俺が十二歳の基幹学校ーー初等教育を終えたβが進学する職業教育校だーー以前の記憶がないことにあるのだろう。  自分の名前が「エイク」であること以外、何も覚えていなかった。ある日突然、道端に立っていたのだ。  どうやってここに来たのか、初等教育を終えるまでどこで生活していたかも思い出せない。  しかし、生まれた時に全てのβの体内に埋め込まれる個体識別番号から照会したところ、精神に異常が見られることから城直轄の施設で生活していたことが判明した。そのため一度施設に返されたが、記憶を失ったことが要因なのか、入所後の脳波検査で正常値になっていたこともあり、俺は施設から出てこのブロックⅡの住人となった。  ブロックⅡに来て俺が初めに教えられたのは、この世界の成り立ちだった。直径二キロのドーム型のシェルターがこの世界で人間が住むことができる全てだ。
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