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 二百年前、地球に隕石が衝突した。隕石を観測できたのがわずか数時間前だったため、隕石衝突時に発生した津波と衝撃波で地球上の多くの物が薙ぎ倒され、人間を含む地球上の八割以上の生物が死滅した。そして、このシェルターに避難した数千万の人間だけが生き残ったのだ。  しかし、人類を襲ったのは、それだけではなかった。次々と女性が、高熱を出して倒れていったのだ。  荒廃した世界で必死に原因を突き止めようと生き残った医者、研究者達は力を尽くした。そして、その原因は隕石によって撒き散らされた宇宙由来の未知のウイルスだと判明した。そのウイルスは女性の子宮に感染すると細胞を侵食、腐敗させる、感染すれば致死率百パーセントの恐ろしいものだったという。  原因が判明した頃には、ほとんどの女性は死に絶えていた。数十名の女性は以前に子宮を取り除く手術をしていたためウイルスに感染せずに済み、生き残ったとされる。  そうして次に人類が考えたのは、どうやって生活するかということだった。そもそも隕石が衝突した後、シェルターの外は風速八十メートルの暴風が吹き荒れる荒野となっていて、外から物資を補給することはできない。一年余りでシェルター内にあった様々な物資は枯渇、暴徒と化した一部の人間による強奪と殺人が起こったが、元軍人と元政治家たちの手によって鎮圧された。   食糧の恒久的な確保のため、様々な野菜類の生産を試みたが、シェルター内にある種と人工太陽と名付けられた天井に取り付けられた灯りで栽培できたのは麦と大豆だけだったという。そのため必要な栄養素を摂取できるサプリメントと麦、大豆を混ぜ合わせた合成食品が、この世界の主食となり、嗜好品は人工甘味料と麦や大豆から精製されるビールと焼酎だけ。それでも、味は人工調味料で変えられるし、大豆から人工肉を生成することができたから、さして問題はなかったという。
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