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 後に人類の九割を占めるαでもΩでもない者達はβと呼ばれるようになり、能力の高いαのみが軍人か政治家に、βは労働者、Ωは我々の命を繋ぐ唯一の存在として保護されているため、かつてステイシー教授ら研究者の居住していた場所に建設された巨大な塔のような施設に住むようになった。  それをいつしか人々は「オメガの城」と呼ぶようになり、Ωと番――婚姻関係とは別の、いわば性行為の独占的関係と言える。発情期と同様に遺伝子操作の際に発生したものだ――になれるαだけが訪問、居住することを許されている。そのため、今ではαについて「城の人間」「城側」、などと言ったりする。  こうした世界の様々なことを、俺は半月余りで理解した。幸いなことに、基本的な生活に必要な知識はあり、高い学習能力が備わっていたのだ。だから、記憶はなくても困ったことは特になく、むしろ様々な事柄を先入観なく思考し、取り組むことができた。  そして、記憶の無い俺が唯一関心が高かったのが機械に関するものだった。持ち前の知的好奇心から、俺は基幹学校の機械労働科に進みトップの成績で卒業。印刷工場のメンテナンスと称した紙詰まり取り係、組み込み機械の工員、機械整備士見習いを経て、ようやく昨年からこの組み込み部品生産工場の整備士となった。  どこかで一度でも躓けば、養豚場の排泄物処理係だ。いつから呼ばれだしたのか知らないが、「養豚場」とは通称で、勿論この世に豚は居ない。今や伝説上の生き物だが、どうやら罵り言葉として使われていたようで、その言葉だけが使われ続けているというわけだ。
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