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ヒナ
「やあいくちゃん、元気?」
「あ、佐々木先生おはようございます。そのいくちゃんっていうのやめてくれませんか?僕の本名は草間 幾だって言ってるじゃないですか」
僕が今日も自分の席に向かっていると、担任である佐々木先生が僕に挨拶をなげかけた。
僕がこもれび学級に通いだしたのは、つい二年前。
事故で左目がほぼ失明して、右目の視力も落ちた。
通常学級からこもれび学級に移ることに抵抗があったのは事実だが、僕はこもれび学級に通うほか、不便な生活を回避する手段を知らなかった。
カバンから教科書を取り出す。
左目はかろうじて見えるのでこのあたりの作業はできる。
ただ体調が悪くて集中できない日はこういう作業ができなくなるから不便だ。
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴り、先生が教卓に立つ。
生徒が一人しかいないのに十も並べられた机を数秒眺めて、先生は口を開いた。
「今日は転校生を紹介します」
転校生?
先生がドアを開け、そこにいた人物の手を引いて教室に招き入れる。
制服のスカートがはたりと音を立てる。
女子だ。
その女子は目の下まで黒いマフラーを巻いていて、目を閉じていた。
「菅生陽菜です。よろしくお願いします」
口元はマフラーでよく見えないけれど、空気がほころんで彼女が笑ったのが分かった。
「よ、よろしく」
こうして、中等部二年のこもれび学級に、新しい生徒が増えた。
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