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「まいくー!…あれ、その子は?」
休み時間、僕が通常学級にいたころからの親友、間宮 夏がひょっこり顔を出した。
その声に、ヒナが声の主を探すようにきょろきょろとあたりを見回す。
「菅生ヒナさん。今日転校してきたんだよ」
「ふうん」
夏が教室に入ってきて、ヒナの机の前に立った。
「こんにちはヒナちゃん、私まいくの親友の間宮夏っていいます。今、前にいるよ」
「間宮さん、よろしくお願いします」
「ナツでいいよ!」
「…ナツ」
ヒナは照れ臭そうに名前を呼んだ。
「差支えなければ聞いていい?ヒナちゃんは、両目とも見えないの?」
「おい、ナツ!失礼じゃ…」
僕が慌ててナツの頭を叩くと、そのぱしんという音を聞いてか、ヒナが首を横に振った。
「いいんですよ。ナツの言うとおりです。私、小さいころに事故で」
「そっか、じゃあまいくと一緒だね」
「お前…僕の情報も暴露しやがって…別にいいんだけどさ」
と、ヒナが首をかしげた。
「あの、ずっと気になってたんですけど」
「ん?」
ヒナが躊躇いながら僕のいる方に顔を向けた。
「草間さんは女の子なのに、なんで自分のことを『僕』って言うんですか?」
「あー、それは」
僕が説明しようとすると、もう一人の親友、岩野ほのかが顔を出した。
「お父さんに『俺は女々しいのは嫌いだ!自分を私と呼ぶんじゃない!』って言われてるからだよね」
「そうなんですか」
「いやだから僕が説明」
自由すぎだろ。
僕が発言する余地、ないし。
「改めて私、岩野ほのかっていいます。ほのかって呼んでね、よろしく」
「こちらこそ」
あ、先生が教室に入ってきた。
「岩野さん、間宮さん。あと二分で二時間目が始まる時間ですよ」
「はーい」
「じゃあね、二人とも」
「一時間目の授業は、いや、今週一週間は、人権作文の授業をします」
人権作文?
「二人でテーマを決めて、話し合って完成させてください。それでは、始め」
いきなり言われても困る。
ちらっとヒナを見ると、彼女は少し考える素振りを見せ、ぱっと顔を上げた。
「連絡先、交換しよう」
「でも、LINE打てないでしょ?僕も文字は無理だし」
「音声入力があるから大丈夫」
ああ、なるほど。
「それに、草間さんからの文章は家族とかに読んでもらえばいいし」
「僕もそうするよ」
カバンからスマホを取り出す。
この学校はスマホの持ち込みがOKだから便利だ。
「「OKグルグル」」
画面を見て操作できない僕にとって、スマホにぐるぐる先生は必須だ。
「あ、これでOKかな?」
「たぶん」
ぴろりん、という音がした。
メッセージが来たようだ。
文章はなく、白い吹き出しだけだった。
でも送り主はヒナだったので、一応これで連絡先の交換は完了したようだ。
「えっと、それじゃあまず作文のテーマだけど」
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