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口元を押さえて、会話に集中すると、小さく生中でーす。なんて声が聞こえてくる。
「淳、飲んでるでしょ?」
「のんでるよー。一人でぼっち酒してる」
お一人様で居酒屋って、中身おじさんなんじゃないかと思う。一人でラーメン屋は行けても、さすがに居酒屋に行く勇気は私にはまだない。他愛もない話をしていると、お腹がグーグーなりだす。何食べてるの?なんて聞かなければよかった。
「おなか減りすぎて大変なんだけど」
「じゃあ、これから来る?」
「えー、やめとく。今見せられない……」
「残念。でもゆっくり寝られるね」
「うん。寝過さないように努力します」
「そうしてくださーい」
「大丈夫。また明日ね」
おやすみ。って通話を終えると、メッセージが届く。
ー 14時。いつものカフェで ー
話し方も性格も、私よりも淳は優しくて丸い。5つ年下、顔はキレイな部類だと思う。初めての印象は覚えていない。辛抱強いのか、物好きなのか、私と付き合っていることが不思議になる。浮気相手でもいるのか、私が遊び相手なのか、時折不安になる。
『モモさん』
『モモさん』
いつからみんなと同じように、モモと呼ぶようになったのだろう。ぬるっとそばにいるから覚えていない。
もう少し、若い子と付き合ったら?
カワイイ子、いっぱいいるよ?
付き合い始めた頃に何度か言った。
今でも口から出てきてしまいそうになるのは、自信の無さから。
美容皮膚科の点滴。ちょっと高めの美容品。たくさんの靴。自己投資は増えて、キレイでいたいと思うようになった。怠けたら、そのツケは確実に自分に返ってくる。倍どころかそれ以上になって。それよりも怖いのは、やっぱり若い子が好きと言われたら立ち直る自信もないから。
余計な心配をしても、体は素直だった。
信号待ちで、欠伸がでてしまう。
疲れた。
疲れてる。
体はバッキバキだし、足もヒールでパンパン。パソコンの見すぎで、目はかすむ。今の私はCMさながらのお疲れ顔が、完成されている。
「……パック、奮発しちゃうか…」
わかっている。浮かれているは私の方。
手のひらで転がされて、友人たちからは忠告される。夢中になりすぎて、大丈夫?と。
大丈夫かどうかわからないが、数年ぶりの恋愛に浮足立たないほうが難しい。
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