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「モモさん、肌つやつやだね」
こじんまりとしたいつものカフェ。テーブル席が満席のため、カウンター席に並んで座る。ケーキの甘い香りに頬を緩めていると、いきなり爆弾を投下してきた。
「でしょ?パック奮発したの」
「彼女感、溢れてるね」
顔が、耳が、熱くなる。体温が上がる。
否定はしない。今朝は本当に頑張った。洗濯機を回しながら、シャワーを浴びて、新作のボディークリームでマッサージをしてストレッチもした。フェイスパックも確実にワントーン明るくなる水分パックを使った。
「……ね、一口ちょうだい」
私の努力に興味もないのか、話題はあっさり変わっていく。皿を差し出すと遠慮なく掬って、一口と言いながら、フォークは止まらない。
私以上に甘い物が好きな淳は、美味しそうに頬張るから、見ていてとても満ち足りた気分になる。
「今度、チョコレート買いに行かない?」
「いーねー。どこの店?」
「鎌倉。たまには旅行でもどうかな?」
「珍しいね。モモさんが旅行なんて」
「……仕事しかしないと思ってる?」
隣を見ると驚いた顔をしている。
仕方がない。私、仕事大好きで、いつも淳は後回しにしているから、当然の反応。
「……有給、……たまってるの……」
だんだんと声が小さくなっていく。自分でとわかるくらい心臓がうるさい。キョトンとしたまま見つめてくるから、穴でもあいてしまいそう。
セットのお茶を飲みながら、どうかな?と再度聞くと、楽しみ。と笑う。
空っぽになった皿。
そろそろ出よう、と伝票を持つと、私のケーキも半分は食べたからと取られてしまった。ごちそうさま。とお礼を言うと、次のチョコレート代はよろしく。とおねだりをされる。
デートといってもどこに行くか決めていないため、そのままぶらぶら歩いていく。夏の暑さはなくて、紅葉にはまだ早い、散歩には気持ちのいい季節。ヒールではなくスニーカーにAラインのロングスカートを合わせた。
「じゅーん」
「んー?」
「……いつも、ありがとう」
「なに、オレ振られるの?」
「違うけどさぁ…」
放っておいて、ごめんね。
甘え下手で、ごめんね。
かわいくない性格で、ごめんね。
たくさんのごめんねを、まとめてありがとうで片付けた。
並んで歩く私の手を、グッと引っ張られてバランスを崩しそうになった。
「ちょっ、どしたの?」
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