1人が本棚に入れています
本棚に追加
義姉が、義姉の父親と一緒に我が家にやってきたのは、ほんの半年前のことだった。母さんが再婚の話を持ってきたときは驚いたけど、相手の連れ子に俺と同年代の女の子がいると聞いたときはもっと驚いたものだ。
どんな人だろうな、なんて、勝手に期待して妄想を膨らませて、「義姉のいる生活」を何十回も頭の中でシミュレートした後、俺は義姉と出会った。膨大なシミュレーションの甲斐もあり、妙に気を張ったりすることもなく、俺は自然体で新しい家族を迎えられた。……はずだ。いや、ちょっとはテンション上がりすぎてるところもあったかもしれないけど。
それから半年も経った今となっては、もうすっかり義姉のいる日常にも慣れて、家族らしくなってきたように思う。けど一つだけ気になるのは、未だに義姉が俺のことを「弟くん」と呼ぶばかりで、未だに名前で呼んでくれないということだ。
どうしても名前で呼んでほしい……というわけでは無いのだけれど、なんとなくひっかかっていた。ちょっとだけ壁を感じてしまうのだ。だって、俺は彼女を名前で呼んでいるのに。
などと、隣に座っている200日ばかり年上の女性のことを考えているうちに、気付けば番組が終わっていた。猫は画面から姿を消し、海をバックに妙にテンションの高い濃い顔の男性が叫ぶ様子が映し出された。
無言で、義姉がリモコンを手に取った。白い指先が電源ボタンを押すことに、異論があろうはずもない。音が消え去ったリビングで、義姉がふと思い出したように「あ」と声を漏らした。
「どうしたの?」
「忘れてた。弟くんに用があったの」
軽く首を傾げながら――細い髪が、さらりと肩から流れ落ちた――姉は、あのね、と言った。
最初のコメントを投稿しよう!