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「ほ、ほら、俺、バイク買ったじゃん。……瑠璃さん後ろに乗っけて、三十分もあれば連れていけるよ」
「えっ、でも……いいの?」
「いいよ」
「本当に?」
「いいってば」
「でもなぁ……」
いったい、何を躊躇っているのだろうか。俺の運転に不安があるとか、あるいは単に俺の背中にくっつきたくないとかだろうか。……そうだったらちょっと死にたい。
たまに不安になるのだ。俺だけ「瑠璃さん」って名前で呼んでるし。そろそろ家族と呼んでいい距離感にはなってきただろうと、自分では思うのだが……実際のところ、義姉はどう思っているのだろうか、と。
「あっ、その、別に嫌なわけじゃないんだけど、うーん……」
慌てた様子でパタパタと顔の前で手を振ってから、義姉がまた天井を見上げた。
「何か、欲しい物とか、ある?」
「え、なんで?」
「お礼はしなきゃじゃない」
妙なところで律儀になる義姉だった。家族なのだから気にしなくていいと思うのだが。
……いや、せっかくだから、言ってみようか。
「じゃあ、お願いがあるんだけど」
「いいよいいよ! お義姉さんに何でも言ってみなさい」
歳の差なんて200日ちょっとしかないのに、時々妙に年上ぶることのある義姉だった。ただ、こうして「姉ぶっている」ときの彼女は、妙に楽しそうなのだ。
今ならいけるだろうか。もうこの際だ、素直に要望をぶつけてみよう。
ちょっとだけ深く息を吸って、唾を飲んでから口を開いた。
「名前で呼んでほしいんだ、けど」
「……名前で?」
目をそらさずに義姉の顔を見ながら、ゆっくりと頷いた。大それたことをしているわけではないのに、心臓の音が嫌にうるさく聞こえた。
義姉の桜色の唇が、動く。
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