名前で呼んでほしいんです

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 ねこはかわいい。  学校も部活も休みの、とある日曜日の昼下がり。42型の液晶テレビに、異国の街並みが映っていた。  じっとり湿度マシマシで蒸し殺しにかかってくる日本の夏とは違う、カラっとした爽やかな熱気の中、石畳の上をを行き交う無数の靴が、カメラの前を右に左に横切っていた。  その靴の群れ向こう側、商店の(ひさし)の影の中に、ごろりと寝転ぶにゃんこが一匹。椅子に座ってパフェのような何かを突いている女性の脚に、ぺちぺちと尻尾をぶつけていた。  ぐーっとカメラがズームアップして、くつろぐ猫の様子が画面いっぱいに映し出される。 「いいなぁ……」  足元に猫がいる日常。猫が好きなのに猫に嫌われがちな人間としては、身を焦がすほどの嫉妬の炎がついつい足元から噴き出してしまうくらいには羨ましい光景である。  感情に任せてキーっとハンカチの端でも噛んでやろうかと思ったが、後ろから聞こえてきた足音が俺を思いとどまらせた。  とん、とん、とん、と、階段を下りてくる軽い足音。上階から下りてくる気配を察して、テレビから目を離した。 「弟くん、弟くん」  黒縁のメガネが似合う、丸顔でちょっと童顔な義姉が、リビングの入り口に立っていた。廊下から顔だけリビングに出して俺を見て、それからテレビに視線が移った。 「……ネコ?」 「猫」 「いいねぇ」  義姉の顔がくしゃっと崩れて、軽い足取りが俺の座っているソファーに近付いた。 「猫好きなの?」 「好きだよ。犬の方がもっと好きだけど。弟くんは?」 「俺は猫の方が好きだなぁ」  拳一つ分の隙間を開けて隣に座った義姉と並んで、猫の映像を眺める。躊躇なく隣に座ってくれたあたり、家族になったばかりの頃のぎこちなさはもうほとんど無くなってくれたようだった。
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