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「達也くん」
ごく自然体で、義姉が俺の名を呼んでくれた。
「……」
「……」
……あれ。
なんか……なんかおかしい。
「どうしたの?」
「いや、なんというか、その……」
義姉が、親の再婚で新しくできた家族が、六か月目にしてやっと名前を呼んでくれたという感動のイベントのはずなのだが。
なんだこれ、感動どころか情緒もへったくれもねえぞ。
普通、こう、もっと、なんだ、何かあるもんじゃないのか、こういうのは。ものすごくさらっと呼ばれてそれっきりなのは、なんでだ。
「……あれぇ?」
「変な弟くんだなぁ」
ああ、しかももう呼び方が戻っている。
「ええと、できれば、今回だけじゃなくて、ずっと名前で呼んでほしいんだけど」
「えー」
義姉は、露骨に嫌そうな顔をした。マジで嫌がっている顔だった。俺は心に傷を負った。
……いや、ほんと、ヤバい、マズい。ちょっと死にたいぞ。名前で呼んでほしいって言って嫌な顔されるってこれかなりダメージでかい。
うわあああヤバいヤバい死んだこれまってちょっと時間巻き戻して――。
「弟くんって呼び方、好きなんだけどな」
「――へっ?」
「だって、世界でたった一人だけの弟なんだよ?」
名前で呼ぶよりも、ずっと素敵じゃない?
義姉はそう言って、にっこりと笑った。
(了)

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