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何杯目かのグラスが空になる。かなりの量のレモネードを飲んでいることに、コナーは自分でも疑問を覚えずにはいられなかった。だが、空になるとレモンの香りが恋しくなる。香水の臭気に耐えかねて、もう一杯、と欲してしまうのだ。
老女は慣れたようにレモネードを注いで持ってきた。コナーは待ちきれずすぐに口をつける。老女は嫌な顔一つせず、コナーがレモネードを味わっている様子を満足そうに眺めていた。
「それが一番初めだったわ」
コナーは口にレモネードを含んだまま、彼女の話す内容を逃すまいとペンを走らせる。
メアリー・アンベルが信頼を置く女性、シルヴィアの死。彼女が語ったように、シルヴィアは“香水”の魔力を十分知り尽くしていたはずだった。並の常識を弁えた人間であれば、香水に魅了されて“飲む”などということはあり得ない。ましてその世界に通じた彼女が、こんな不可解な死を遂げるというのはあまりに不自然だ。コナーは顎に手を当てて唸った。彼女を狂気に至らしめたそれが、まさか──。
「これはまだ始まりにすぎないの。魔法は暴走していくのよ」
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