9人が本棚に入れています
本棚に追加
「……シルヴィアの死について、私には思うところがあるのよ」
一度口を閉ざして、老女はぽつりと呟いた。コナーは埋め尽くされたページをめくって、白紙に“シルヴィアの死”と記す。
「彼女もね、秘めたる熱情を抱えていたのではないかと思うの。“至高の香りを纏っていたい”というね。メアリーにとってそうであったように、彼女にとって“熱情”は、彼女自身の理想の具現でもあったのよ。強い魔法によって解放された彼女の熱情は、シルヴィアにどこまでも“熱情”の香りを求めさせた。遂には体内に取り込みたいという狂気に取り憑かれるほどに……」
「香水を口にした女性たちは、皆そうだったと」
「全員がそうだったとは言わないわ。けれど間違いないのは、“熱情”の香りによって呼び醒まされたものが、その行為に至らしめたということ」
老女の言った“本物の魔法”という言葉を、コナーは思い出した。強すぎる魔法が人々を“熱情の解放”という形で狂気に陥れる。これは確かに“魔法”というより他はない。だがその内実は、解放を望んでいたはずの“呪い”に近い。皮肉なことだと浮かびかける嘲りめいた笑みを、コナーは当事者だった老女を前に、レモネードのグラスで隠した。
「それで、暴力というのは」
「一連の事件で最大の出来事よ。あの夜のことは今でもはっきり憶えているわ……。香水の工場が襲撃されたの。それも一人じゃない。大勢の手によってね」
最初のコメントを投稿しよう!