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「彼女の作った香水は、本物の魔法だったのよ」
御伽噺でも語るように、老女は言った。コナーは記事に使えそうだと思い、その言葉も手帳に書き留める。
「“魔法”ですか」
「そう……“本物の”ね」
話し疲れたのか、老女は一度小さく息をつき、思い出したように「おかわりはいかが?」と訊ねた。コナーのそばのグラスは、取材中に少しずつ飲んだせいで既に空になっている。甘いものはあまり飲まないのだが、これは珍しく簡単に飲み干せてしまった。強いレモンの香りのおかげで、甘ったるさを感じさせないせいだろうか。
「褒めていただいたから、嬉しくなってしまって。まだお飲みになるかしら。お作りするわ」
「では、お言葉に甘えて」
老女は奥へと戻っていき、しばらくして並々注いだレモネードを持って出てきた。カウンターに置かれたグラスから、再びレモンの香りが届けられる。コナーは軽くグラスを傾け、その香りを愉しんだ。心なしか、このレモネードのおかげで頭が冴えているような気がする。メアリーが朝方に柑橘の香を好んで焚いていたというのはこういうことだったのかもしれない。だとすれば、香りという感覚が、ひいては香水が“魔法”であるというのも無理な話ではないのだろう。
そんなことを考えていると、老女がコナーの前に再び腰掛けた。コナーはペンを取り、居住まいを正す。
「ごめんなさいね、区切ってしまって。話を続けましょうか」
「お願いします」
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