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実花ー、実花ちゃーん。
私を呼ぶ声がきこえる。
千香子さん、実花ちゃん居たよ!
叫ぶ声。近づいてくる、足音。
火葬場の裏手の茂みの中で私は、涙と鼻水と、いろんなもので顔をぐしゃぐしゃにして、地べたに蹲っていた。
お母さんが「実花」とあやすような声で、そっと私の背中を撫でる。
「終わったよ。お姉ちゃん、煙になって天国に上っていった。最後にちゃんと、実花も骨を拾ってあげよう」
天国?
そんなもの、あるわけない。
それでも、背中を擦るお母さんの手のあたたかさで、呼吸が少し、落ち着いていく。息をしてる。目が見える。耳が聞こえる。当たり前のことを、思い出す。
そして、遠巻きに集まった大人達が憐れむように囁き合うのが耳に入った。
お通夜でもお葬式でも実花ちゃん泣いてなくて。どうしたのかなと思ってたんだけど。たった2人の姉妹だもの、悲しくないわけないよね。きっとまだピンとこなかったんじゃない?実花ちゃんまだ10歳だもの。焼かれて骨になるって、それでやっと実感したのかな。あんなに泣いて、かわいそうに。
違う。
やっと思い出した呼吸の仕方が、またわからなくなりそうになる。
もちろんお姉ちゃんが死んだことは悲しいし、もう会えないのは寂しい。
だけど、違う。
私を、子供扱いしないで。
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