堕ちる

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「沙耶、ちょっと、いい?」  同期の有紀ちゃんが真剣な眼差しをわたしに向けていた。びくり、とした。  休憩ブースに肘をついて、有紀ちゃんは、「はぁ」と、短いため息をついた。 「沙耶。一昨日、室西のアウトレットモールに行った?」 「……うん」  そっか、有紀ちゃんは苦笑いをして、わたしと篠原さんが一緒にいるところを見られたと告げた。身体中の血液が冷えるような感覚とともに、唇が妙に渇いた。 「沙耶。あたしでできる限りは火消しに走るよ。……そんなの、やめときな。とは言えないよ。でも、それでも、止めといた方が良いと思う。その恋は、罪なんだよ」  頷いた。その通りだと思ったからだ。  隣に置かれた鉢植えに珍しい花が咲いていた。すでに花開き、もうその美しさを終えようとしている。  わたしが、わがままを言わなければ、わたしたちはまだ一緒に居られただろうか。いや、ただ、陽の光や月の光から隠れる日々が続くだけだったのだろう。  ねえ、神様。  認められないもの、許されないもの。  世の中には、たくさん溢れているじゃないですか。  なぜだろう。  いつも、思うのです。  この狂おしいほどに感情を揺さぶられる、人を好きになるという、とても人間的な感性。  これが断罪されるのは。  なぜなのだろう。と。  篠原さんは俯いたまま、いつも以上に仕事に励んでいたように思う。  頭の良い篠原さんのことだ。おそらくは、この空気を察し、思考をめぐらせていたのだろう。  終業後にLINEが届いていた。すでに退社してスマホを握っていたわたしは、すぐにそのメッセージを見た。すぐに既読をつけた自分が恥ずかしいように思えた。
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