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罪と罰
街灯に篠原さんが照らされていた。
誰も居ない公園。会社からも繁華街からも、わたしの家からも篠原さんの家からも離れた知らない公園。
今のわたしと篠原さんが会える場所。
そこに、篠原さんが吹きつける風に煽られて立っていた。
「ごめん」
「ごめんって言われるのが一番いやです」
「……ごめん」
すぐ言う。くすり、とわたしは笑う。
わたしは分かっていた。
わざわざ、この状況で知らない遠い公園で待ち合わせたこと。
わたしは分かっていた。そのごめん、に意味があることを。
「もう……終わりにしたい?」
わたしから、言った。
意地悪な言い方しか出来なかった。その方が、篠原さんは言いやすいかと思ったのだ。
街灯に照らされた篠原さんが悲しそうな顔をした。口の形が「お」の形をして、そのまま声に出さず、篠原さんは唇を結んだ。
どこかで犬が鳴いている。ご飯を欲しているのか、寂しそうな鳴き方だった。
「終わりに、したい。家族もいるし、会社でもバレてきてるし」
向き直った篠原さんは、淡々とそう口から声を出した。
その表情は、今にも崩れて砂と化しそうな、とても苦々しく辛いものだった。
そんな嘘、つかなくても、わたしはあなたをもう苦しめたくない。
ねえ。
篠原さん。
たとえ、世界中があなたを罪人と見ようと、わたしはあなた以上の善人を知らないよ。
好きになってしまったものね。
でも、駄目なんだ。
わたしたちは罪を犯したんだ。
ねえ、篠原さん。
わたしは貝になりたい。
好きな人のもとへ、何も気にせず近寄っていける貝になりたい。
息が苦しくとも。背負った殻が重くとも。
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