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堕ちる
篠原さんとは、入社して二年が経った頃に初めて話をした。
他愛ない話だ。
弁当を温める電子レンジの列に並んでいた。なかなか列が詰まっていかない中、ふと後ろに何人並んでいるのか気になって振り返った。すぐ後ろに並んでいた篠原さんとばっちり目が合ってしまった。
ん? という表情を見せ、そのまんま篠原さんは微笑んだ。
「お弁当、自分で作ってるの?」
と、篠原さんは訊ねてきた。
「あ、一応。残りもんですけど」
「偉いね」
「いやいや、詰めるだけなんで」
「詰めるだけ、をやれることが偉いと思うよ」
この電子レンジの列に並んでいると、よく同じ質問をされる。
みんな、「偉いね」と言ってくれる。その後は、「自炊してるんだ?」「料理、得意なの?」なんて言葉が続いてくる。
その時の篠原さんの言葉は、他の人とは些細な違いでしかなかったかもしれない。でも、なんだか、ほんとに偉いのかな。そう思わせてくれる言葉で胸に残ったんだ。
篠原さんは一分だけお弁当を温めて、わたしより先にデスクへ戻っていった。列の長さを気にしてのものだと、後ろを見て気がついた。
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