堕ちる

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 それから、すこし、話すようになった。  積算、最近忙しいんですか?  営業企画は?  残業多いって目つけられてます  そうか、なるべく早く帰りなね  おはよ  おはようございます  髪、切ったんだね  よく分かりましたね  さすがに分かるよ  お疲れ様でした、まだまだですか?  まあね、明日までなんだ  手伝いましょうか?  積算を? 頭おかしくなるよ?  やめときます  ふふ、お疲れ様。気をつけてね  篠原さんの奥さんは幸せだろうな。  ふと、そんなことを帰りの電車で思った。  今、思えば、あの電車の中でわたしの恋心という花は芽吹いていた。  あのとき。何色の花を咲かせるかも分からないその芽を、わたしは途中下車して育てないようにできただろうか。
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