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見たことのない色が蕾から覗いていた。
初めて見たその怪しげな色を、美しいと思った。
毎年11月に会社の慰安旅行がある。毎年、二つの班に振り分けられ、行き先も分かれる。いつも各地の温泉が主流だが、今年は少し自己負担が増えるものの石垣島がラインナップされた。
同期と「冬だろうと絶対に石垣島!」と約束し合ったものの、希望者が多く抽選となり、わたしは同期で一人だけ城崎温泉となった。がっかりした中で、あ、と、小さな声を漏らしそうになった。城崎組のリストに篠原さんの名前を見つけた。
城崎温泉組は、毎度のことながら、お酒てんこ盛りの宴会となった。結局、わたしたち若手の女性社員たちは酒汲み役に回される。そもそもお酒に弱いわたしにとって、同期が守ってくれることでこの酒汲み役をこなせていたのだが、今年はその同期が居ない。
例によって、お酌するたびに一杯ずつコップにビールが注がれ、だんだん悪く回り始めた。景色が歪み、足に力が入らない。
「呼んでますよ」
ふいに、そんな声が耳元で聞こえた。
「中島さん、呼ばれてますよ?」
ぼんやりした視線に篠原さんが映っていた。篠原さんはわたしの手を取って、宴会場から連れ出した。
酔いも回ってぽかんとするわたしに、篠原さんはスリッパに履き替えるよう促した。
「見てたら危なそうだったから。トイレ行くとか、夜風にあたってくるとか、しておいで」
酔いが回ってさえいなければ、その花は咲かなかっただろう。わたしの口は、脳を回ることなく開いた。
「篠原さんと夜風浴びたいです」
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