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社内では、お互い何食わぬ顔で過ごしていた。出社時に会っても、お昼の電子レンジの列に並んでいても。
若いわたしは、篠原さんの思わせぶりだったのか、と、わがままにガッカリしていた。確かめようと思った。
篠原さんが複合機に向かった。資料をプリントアウトするようだった。わたしは、その後に続いた。黙々と操作する篠原さんの背中にそっと指を這わせた。驚いた篠原さんが振り向く。わたしは知らぬ存ぜぬ顔をしたまま、隣の複合機でコピーを取り始めた。篠原さんの顔は驚きの中に照れを隠していた。
わたしは、複合機の画面を見たまま、そっと右手を篠原さんのほうに伸ばした。篠原さんが気づく。困ったように、でも、篠原さんは複合機に目を落としたまま、左手を伸ばしてわたしの小指に触れた。篠原さんの温度を感じた。
誘ったのも、ほぼ、わたしだ。
「帰りですか?」
「うん、中島さんも?」
「はい」
篠原さんは、わたしのことを子供っぽいと思っただろうか。
まだデスクに個人用のスマホが置かれていて、篠原さんはわたしが気づかないように、そっとポケットにしまった。
「一緒帰ろうか」
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