エイリアン

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エイリアンが泣いていた。 教室の隅っこで小さくなって。 僕はそぉっと息を潜めて、後ろのドアから覗いてた。 エイリアンは泣き続けてる。 僕の視線に気づかずに。 エイリアンは涙を拭う。 服の袖はもうびしゃびしゃだ。 僕はゆっくり教室に入る。 忘れ物でもした風な顔で。 エイリアンは気づかない。 涙で前が見えないのだろう。 僕はぐっと覚悟を決めて、 その正面に回り込む。 ランドセルをガシャンと鳴らし、 自分の真横に置いたなら ふぅっと息を大きく吐いて、 その場にゆっくりしゃがみ込む。 エイリアンはやっと気づいて はっと目を開き驚いた。 僕は静かな声を出す。 「なんでそんなに泣いてるの」 エイリアンはちょっと困ったように、首を傾げて呟いた。 「別にいいからほっといて」 そうして俯くエイリアン。髪が涙で頬に張り付く。 僕はそれを払おうと その顔に思わず手を伸ばす。 エイリアンははっとして、 その手をすかさず振り払う 「触らないで!汚れるよ」 「触っただけじゃ、汚れないよ」 僕らはふたり、睨み合う 「だって私はエイリアン」 「違うよ君は人間だ」 「触れたりしたら明日から、あなたもエイリアンって呼ばれるわ」 エイリアンは大きな涙を流す。 「嫌われ者になっちゃうよ」 「僕はそんなの構わない」 「私を見て分からない。エイリアンって辛いんだから」 「だから、君はエイリアンじゃない」 「ホントよ、みんなから避けられる」 「みんなじゃないよ、僕は避けない」 エイリアンは立ち上がると、キッと僕を睨みつけた。 「なんであんたはいつもいつも…私に話しかけないで」 僕はその場に座ったまま、エイリアンの目を見つめかえす。 「僕のことが嫌いなの?」 エイリアンはまた涙を流した。 「バカなのあんた、気づきなさいよ。私と関わるとあんたまでいじめられるよ」 そう言うと黒板の端を指さす。 書かれた汚い相合傘。 エイリアン、の横に書かれた僕の名前。 僕はゆっくり立ち上がると、エイリアンの横に行く。 「なんで君は泣いてるの」 エイリアンは顔を歪ませた。 「私は…」 僕は黒板消しを手に取る。 エイリアンの顔が引きつった。 それに構わず相合傘に、黒板消しを押し当てた。 消えるエイリアンの文字。 代わりに書くのはエイリアンの、 彼女のほんとの名前。 「ねぇ、君はエイリアンなんかじゃないんだよ」 僕は言う。 彼女はその場に立ったまま、僕に向かって尋ねてきた。 「ね、なんであんたはずっと泣いてるの」 「僕…?」 僕は頬に手をあてる。冷たい涙が手に触れた。 なんでだろう。 僕が困った顔をすると、彼女はおかしそうに笑った。 なんでだろうねぇ。 こんな可愛く笑うなんて、彼女はやっぱりエイリアンじゃなかったんだ。それがとても嬉しくて、僕もつられて笑っていた。 それからすぐに、彼女は遠くの町へ引っ越してしまいました。 小学4年生の夏の事でした──────
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