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「僕も人食いの鬼については少しくらいは知っているんだ。鬼には二種類いる。本物の鬼と、瘴鬼と呼ばれるまがいものの鬼だ。君は……まがいもののほうだね」
「てめえ、いつから気付いて――」
女は眉間にしわをよせ、わなわなとふるえている。額や手首には血管が浮き、皮膚は赤黒く変色し始めている。
「最初から。じゃなきゃ、こんな血なまぐさい部屋には来ないよ」
男はふっと笑い、先ほどまで座っていたソファの生地に爪を立て、無造作に裂いた。そして、中に手を入れ、細長いものをいくつか取り出し、床に放った。それは人の骨のようだった。
「さっき、君がシャワーを浴びてる間に一通りこの家を見て回ったんだけど、ずいぶん悪趣味だね。人間の死体から家具を作るなんてさ。地下室には工房みたいなものもあるし」
「はっ、やけに余裕の態度ね。死体を見て逃げ出さなかったなんて。あんたもすぐにそうなる運命なのに」
「……どうかな?」
男は整った顔をゆがませ、不敵に笑った。そして、それを挑発ととらえたのだろう、女はいっそう激昂し、「くそがっ!」と叫ぶと同時に、男に襲いかかかった。ソファの上でいったん身を縮ませ、ばねのように飛びあがったその動きは、猿によく似ていた。だが、俊敏さは猿の比ではなかった。人の形をした生物のものとは思えない、尋常ならざる速さだった。
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