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だが、男はその動きを的確に見切り、紙一重でかわした。女の爪はむなしく空を切り、勢い余って、向かいの壁にぶつかった――いや、壁に着地した。爪を壁面に食い込ませて。
「凶暴だね。今までの被害者もみんなその爪で殺してきたのかい?」
男はやはり余裕の態度だ。女の目は今やギラギラと赤く光り、大きく開かれた口からはよだれが滴っている。先ほどまでの美貌はどこにもない。醜悪な怪物そのものだった。
「てめえも、おとなしくアタシに殺されてりゃいいんだよ!」
「いやだね。君のコレクションに加わるのは」
「だまれっ!」
女は叫ぶと、再びその場から跳びはね、男に襲い掛かった。やはりその動きは、俊敏そのものだった。
そして男は、再びそれを紙一重でかわした。だが、今度はその直後に、女の体に蹴りを入れた。女はそのまますさまじい速さで近くの壁に激突した。そして、壁に血をにじませながら、ずるりと下に落ちた。
「な、何、この力……あんたもしかして……」
壁に手をつき、よろよろと体勢を立て直しながら、女は言う。その口や鼻の穴からはドス黒い血が滴っている。
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