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エピローグ~理想の末路~
施設から出たその光景は、着た時と何も変わらない、穏やかなモノだった。
しかし街を歩く人達の表情は、人間のそれとは、あまりにもかけ離れたモノだった。
これはある意味、アルカディアを壊すことが出来たと言っても、いいのかもしれない。
少なくともアルカディアに住むのは、人ではなくなった。
人の形をした人形だ。
そしてその代償は、俺の隣に居るコイツも、ユラも例外では、なかった。
車の窓の外に居る奴らと同じ様に、ユラもまた、感情というモノを、失った。
それはあの施設の中、あの男の死体を見ていたユラの表情が、今までのモノと明らかに違っていたから、すぐにわかった。
コイツの表情から何も感じることが出来なかったことを、俺はひどく、恐いと思った。
こんな結末だとわかっていたら、ヴァローナはどうしていただろうか。
こんな全部が仕組まれていて、作られていて。
何もかもが全て、外側に追いやられたような感覚を、植え付けられて。
そして僕は何も、感じなくなってしまった。
悲しさとか怒りとか喜びとか...そういうモノを、僕という人間の外側に、追いやられてしまったのだ。
これが理想を謳った末路なら、人間は理想を形にするべきではないのだろう。
そもそも理想と現実は、相反するモノなのだから、もしかするとこれが、当たり前の結末なのかもしれない。
そんなことを考えながら、僕達はアルカディアの、外に出た。
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