生き方も、死に方も

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生き方も、死に方も

 「君はどうして、何も教えてくれないんだ。」  不意に言われた言葉に、ヴァローナは少し驚く。  しばらくして部屋に戻ったヴァローナに、僕は強い口調で問い詰めた。  部屋にはカーグさんやガットネロさんも居たけど、そんなことはどうでもいいくらい、僕は何も教えてくれなかったヴァローナに対して、怒っていたからだ。  「はぁ...何の話だ...?」  本当に思い当たる節が無いように、彼は反応した。  それを見かねたカーグさんが例の資料を持って、ヴァローナに言った。  「丁度ユラ君に教えていたの。アルカディアのこと。それと...」  そう言い淀むカーグさんを見て、ヴァローナは何か、察しが着いたのだろう。  面倒臭そうに、彼は言った。  「はぁ...余計なことを...」  「余計なこと?」  「...」  しばらくの間、睨み会う僕たち。  しびれを切らしたのは、ヴァローナの方だった。 「...ユラ、外に出ろ。俺に言いたいことが、あるんだろ?」  そう言うと彼はまた、店の外に足を向けた。  そして今度は、僕がそれを、追いかける形になった。  彼の後を追って着いた所は、店の裏側にある、ただ広いだけの場所だった。  しかしこの店は市街地の中心にあるため、周りに何もないわけではなかったのだ。  そしてそこに着くと、僕は彼に対して、店の中に居た時と同じ様な口調で、話し始めた。  「君は大切なことは何も教えてくれない。アルカディアのことや、君自身のことも...何も...。」 「知ってどうする...?必要ないだろ、そんなこと。アルカディアのことは、これが終われば、嫌でも目の当たりにするんだ...。」 「君のことは...?」 「それこそ、必要がないことだ...。」 「ふざけるな!!」  必要がない。  二回目のそれを聞いたとき、僕は彼の胸ぐらを掴んだ。  そして掴まれた方のヴァローナは、また面倒臭そうに、僕に言う。  「...やめろ...手を離せ。」  「君が僕に言うべきことを言うまでは話さない。」  それを聞いたヴァローナは、僕の腕を強く掴んで、僕の目を見て、言った。  「いい加減にしろ。あんたは、俺に誘拐されているんだ。そんなくだらない事を気にする前に、自分の命の心配をしろよ。」  そのヴァローナの声は、怒りに震えていた。  彼は冷静さを保とうとしているが、その言葉から、憤りを感じるのは、あまりにも、簡単だった。  そしてそれを感じた上で、僕も彼の目を見て、彼に言葉をぶつけた。  「あぁそうさ。僕は君に誘拐された被害者だ。だけど今は違う。今の僕は、君に協力することを選んだ。君の力になれる。君と同じ、人間だ。」  「俺と同じ...?」  僕の腕を掴んでいた手がゆっくりと離れる。  しかし次の瞬間、ヴァローナに脚を払われバランスを崩す。  そして彼の胸ぐらを掴んでいた腕は振りほどかれ、両腕を後ろ向きで固定される。  そして地面に這いつくばる様に、僕は彼に拘束されてしまう。  地面に這いつくばる僕に対して、彼は何かを、僕の首筋に当ててきた。    「これがナイフなら...あんた、とっくに死んでるよ。」    「…」    「俺と同じだって...あんたこそふざけるなよ。俺みたいな外側の人間と、あんたの様な内側の人間はなぁ、生き方も、死に方も、そもそも住んでいる世界も、何もかもが違うんだよ。少なくとも俺は、お前らのような、一年後、二年後を考えられる様な余裕なんてありゃしない。明日、自分が生きている補償もないんだよ...。」  そう言いながら、彼はさらに強い力を僕に掛けてきた。  これが、彼がこの場所で生き抜くために身につけた、技術なのだろう。  他人から殺されず、他人を殺すための、技術なのだろう。    「...それでも...今は僕も...外側の人間だ。」    虫が鳴くような声で、僕は言う。  それは今、彼に拘束されているせいか、肺が潰れる程苦しい状態の僕が言える、精一杯の反論だった。  それを聞いた彼は、少しずつ、僕に対しての拘束を緩めていった。  そして冷たい声で彼は言った。    「...たった数日、居ただけだろ。」    そう言って彼は、僕の横にへたり込むように座った。    「たった数日でも、僕はこの世界で、君と暮らしたていたんだ。その事実は、変わらない。」  押さえつけられた後だからなのか、まだ声が出にくい。  身体も、うつ伏せの状態から、起き上がることができない。  しかしそんな僕に対して、ヴァローナは言葉を言い放つ。    「それだけで...たったそれだけのことで、あんたは俺のことまで知ろうとするのか?」    「そうだよ...。」    「なんなんだよ、アンタ。そんな馬鹿なやり方していたら、いつか必ず後悔するぞ。いいか、俺達にとってはなぁ、必要以上に、他人のことに関わらないのが、当たり前のことなんだ。」  「そんなの...悲しすぎるよ...。僕はもっと、ヴァローナのことを、ちゃんと知りたいんだ。」  「そんなの...知ってどうするんだよ...。」  「君のことをちゃんと知って、家族になりたい。誘拐の加害者と被害者とか、そんなのじゃなくて、カーグさん達みたいな、考えていることを何でも話し合える、家族になりたいんだ。」  「...家族...か。そうやって、アンタは自分にとっての大切なモノを増やしてしまうんだな...けどそれは甘さだよ、ユラ。それはいつかあんたを、本当に殺すことになる。」  悲しそうな声で、うつ伏せのままの僕の隣に座り込みながら、彼はそう言った。  そしてそれを聞いた僕も、ありったけの本音を、彼にぶつけた。    「...それでもいいよ。僕は君と、対等で居たいんだ...。」  「はぁ...あんた、本当にどうかしているよ。はっきり言って、狂っている。」  「そんなこと、自分が一番よくわかっているよ。けれど、そうじゃないと僕は、君の力に、なれないだろ...?」  「はぁ...全く、厄介な奴を連れて来ちまったな...。」  そう言ったヴァローナの声は、いつものように静かなのに、どこか違った空気を含んでいる様な気がした。  そしてこの時のこれが、生き方も、死に方も、住んでいた世界さえも違っていた僕達の、最初で最後の、喧嘩だった...。
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