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その少女、明日香は「覚えてたんだ」と意外そうにつぶやく。
「……久しぶりだね、今は高校2年生だっけ? お母さんによく似てる」
「……まあ、よく言われます」
「……元気にしてたかい?」
「……大きな怪我とか病気は特に」
「それは良かった……学校はどう?」
「……それなりに」
「そうか……お母さんとは上手くやってた?」
「……はい、仲は良かったです」
15年ぶりに再会した親子のぎこちない会話が続く。明日香は終始硬い声で、俺の質問に淡々と答えた。
「その……たくさん苦労をかけたね……本当に申し訳ない」
俺はずっと言いたかったこと、言わなければならなかったことを口にした。
「別に……謝られても、お母さんは戻って来ないし」
俺が頭を下げても、明日香はなんの反応も示さず、抜け殻のようにそう言っただけだった。
「そうだよな……本当にすまない……それで、これからどうするつもりなんだい?」
「……分かりません。多分、お母さんの親戚の家に引き取られるんだと思います」
それまでキッパリと受け答えをしていた明日香の言葉の勢いが失せたような気がした。
戸惑いや悔しさ、寂しさなどを孕んだ瞳。明日香の感情の欠片を初めて見たような気がした。
「そうか……良かったら一緒に考えるよ」
俺がそう言った途端、明日香の瞳の奥で、何かが光った。
「……えの……いだろ」
ギリ、と明日香が歯ぎしりする。
「お前のせいだろ! ふざけんなよ!」
明日香は今まで溜め込んできた感情を、爆発させるように叫ぶ。周囲にいた喪服を着た人たちが、驚きと不審感を含んだ視線を俺たちに向けた。
俺はこの子にもまだ感情が残っていることに安堵し、明日香の叫び声に乗った苦しみ、悲しみ、絶望、怒り……全ての感情を全身で受け止めることにした。
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