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「お前のせいでお母さんは……! お前がお母さんと不倫なんかするから、お母さんを捨てたから、あたしを育てるために必死に働いて、頼るところもなくて、あたしの前では辛い顔1つしないで……過労で病気になって……それで……全部お前のせいなんだよ!」
明日香の口から放たれる、感情に任せた言葉の刃を、俺は真っ直ぐに受け止めた。
「……全部お前の……せいなんだよ」
どのくらいたっただろう?
明日香はこの言葉を最後に、俯いたまま黙り込んでしまった。
「……あぁ、俺のせいだよ。君は俺を一生恨んで生きてくれて構わない」
明日香の肩が、ピクリと動いた。
「……だけど、だからこそ、君が生きるための手伝いをさせてくれないか?」
「……あなたに、何ができるって言うんですか。15年前、お母さんを捨てたあなたに」
捨てた……姿を消したのは玲奈の方だが、確かに明日香からしたらそう見えるだろう。
「……正直、自分でもどこまでしてやれるか分からない。こんなことで償いになるとも思ってない。でも、何か手伝わせて欲しい。だって明日香……嫌だろうけど、君は俺の娘だから」
「……信用できない」
明日香は俯いたまま、そっと呟いた。
「そう、だよな……」
肩を落とす俺の言葉に明日香は「でも」と声を重ねた。
「いつか、やり直せるのかな……お父さん」
俺を父と読んだ明日香の瞳には、光が宿っていた。
「あぁ、いつか必ず、やり直そう」
俺もその瞳を見つめ返して頷く。
「これ、あたしの携帯の番号。お母さんの名前で契約してるから、来月には使えなくなるかもだけど」
明日香はメモ帳を鞄から取り出し、携帯番号を記入するとそれを俺に差し出した。
「ありがとう。今月中には連絡するよ」
俺はそう言って、新たな覚悟を胸に葬儀場を出た。
妻、大学生の息子、中学生の娘……家に帰ったらまず、家族に全てを話さなければ。たとえその結果がどんなものであっても……。
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