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私が泣いた理由
今までにないほどの惨めさを味わったあの日、レストランを後にするとすぐに、山野さんへ電話をかけていた。
怒り、憎しみ、惨めさ、色んな感情が入り混じる中で、うまく説明が出来ていなかったと思う。ひとしきりわんわんと泣きながら話し終えたころ、山野さんが口を開いた。
「さっちゃん、話してくれてありがとう。さっちゃん、覚悟はある?徹底的に行くわよ。」
電話口の向こうから、少しの刺激で爆発しそうな静かな怒りを感じた。
その翌日、山野さんは、プレゼンさながらパワーポイントで資料を作ってきた。山野さんは本気だった。
「いい?さっちゃん。これは、私たち二人の幸せを勝ち取るための戦いよ。大丈夫。私を信じなさい。」
そう言った山野さんは、営業部時代の戦闘モード全開の表情になっていた。
決行日は役員会。
山野劇場の開幕だった。
その後、神田役員には降格と減給の処分が下されたが、噂は社内中に広まり居づらくなったのか、会社を辞めたようだ。
営業部による企画会議も刷新された。
担当執行役員は、山野執行役員。
役員会満場一致の抜擢人事だった。
自分が信じた安全でママに優しい玩具を作り続けたい、その思いを込められた玩具を作れることが幸せなんです、だから、そのポジションに興味はありません、と最初は断ったそうだ。
しかし、社長からの猛烈プッシュもあり、受けることにしたそうだ。
あの時、役員会で流した復讐のために用意した涙は、ふり返ってみると、この状況を確信した喜びの涙だったのかもしれない。
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