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昼食時間。いつもなら購買部で買ったパンやおにぎりを教室で食べているのだが、今日は先ほど頼まれた件があるので、勝手が違う。
「…という訳なの」
朔夜との顔繋ぎを頼みにきた大石さんと、別のクラスの宮下さんと一緒に、購買部前の談話スペースで食事をしながら用件とやらを聞いていたのだ。私の左に村田さん、前に大石さん、村田さんの前が宮下さんだ。
「なるほどね。そうだったんだ」
村田さんが楽しそうに頷いて、サンドイッチを口にする。
「岡元君、美形だもんね。わかるわかる」
「あ、村田さんもそう思う?」
宮下さんがうれしそうに微笑む。
私は、そんな2人の様子を見ながらおにぎりをかじる。
「岡元君って、物静かだよね。家でもそうなの?」
大石さんが聞いてきた。
こういう事、聞かれるの嫌だな。
思わず眉を寄せた私の横で、村田さんが肩をすくめた。
「たまに一緒に帰るけど、ほとんどしゃべらないよね」
村田さんは私が苦手な質問がくると、さりげなく話を促してくれる。苦手な事を見抜かれてるのかもしれない。
「うん。物静かというより、無口で無愛想だよ」
「そうなんだ」
大石さんと宮下さんがうなずいた時、ちょうど朔夜が購買部に来た。近くに友人がいる様子もない。
「朔夜」
朔夜はこちらを見て、大所帯に目を丸くした。
「朝乃。珍しいな」
「1人?」
「はぐれた」
「一緒に食べる?」
「そうだな。買ってくる」
朔夜は購買部に入って行く。私は大石さんと宮下さんを見た。
「こんな感じで良かったかな」
「岡元さん、ありがとう!」
2人が頭を下げてきた。村田さんも笑顔でうなずいている。
「朝乃」
菓子パンを持った朔夜が私の横にきた。
「朔夜、同じクラスの大石さんと、大石さんの友達の宮下さん。村田さんはわかるよね」
「ああ」
朔夜は無愛想に頭を下げると、さっそくパンにかじりつく。
「あの、岡元君。お願いがあるんだ」
大石さんの声に、朔夜が目を向ける。
「私と佳代、宮下ね、演劇部に入ってるんだけど、男子部員少ないんだ。この前の演劇発表会のときもいろんな人に応援してもらったんだけど、今回もね、応援が必要なんだ。もしよかったら、応援入ってもらえないかな」
「そんなに難しいことはないと思うんだ。お願いできないかな」
大石さんと宮下さんが頭を下げる。朔夜は少し考えて、こう答えた。
「考えさせて」
「うん。稽古開始は2週間後だから、それまでに返事もらえれば大丈夫。岡元さんに伝えておいてくれてもいいよ。そんな堅苦しく考えないで」
「返事は俺からする」
朔夜はそう言うと、あっという間にパンを食べ終えて立ちあがった。
「お先に」
「うん」
朔夜が歩いていくと、大石さんと宮下さんが改まって私に頭を下げた。
「岡元さん、本当にありがとう。助かった」
「どういたしまして」
お役目終了。
肩の力が抜けた私は、急いでまだ残っていたおにぎりを口にした。
「それで、岡元さんと村田さんにも、応援お願いしたいんだけど、お願いできるかな」
そんなの聞いてない。
私と村田さんは思わず顔を見合わせた。
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