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死の足音
夜の時間ばかりが長い、ある世界。
なかでも日の殆どの時間帯が闇に呑まれる国の、首都の片隅で。
小さな狼の女の子が、誰に知られることなく、ゆっくりと死の眠りに誘われようとしていました。
* * *
───そこは、煌びやかな光のすぐそばに、深い闇の横たわる街。
美しい衣服に身を包み、長い夜の時間を愉しむ人。
重たい夜の闇を寄せつけないように、決して消えることの無い街の光。
誰かとこの後の時間を共にしようとする艶やかな声。
何処からか香る、くらくらするような甘い臭い。
時々その獣の耳に微かに届く、道を行く親と子の温かな会話。
誰もが明日を当たり前に得られる、そんな世界が一本向こうにある。
そんな───決して遠いわけではないけれど、伸ばした手が光に届くことはない、夜闇に抱かれた路地に。
それは、いたのでした。
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