結局、隠し事

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心臓の音が、あり得ないぐらいに煩い。耳鳴りがしそうなこの音は、もしかしたら目の前にいる彼女に、聞こえているんではないかと思ってしまう。 しかし、彼女は涼しい顔をして、左手に持った流行りのドリンクを太いストローで啜った。 「おー、これは美味い。壱碁(いちご)、『タピオカミルクティー』なんて、初めて飲んだが、なかなかに美味しい。この、タピオカの喉を通る感じがいいな。やはり、流行っているだけのことはある。」 彼女はそう、僕を見て、実に無邪気に微笑んだ。 「そう、です、か。...良かったです。」 だから、僕は何も言えなくなる。ただ、無邪気に笑う彼女を見て、あぁ、今日も好きだな、なんて、隠すつもりのない恋心を、さらに熟成させるだけだ。 「壱碁も飲むか?」 彼女はそう言って、僕の目の前に、飲み掛けのドリンクを差し出してくる。そのドリンクには、先程まで彼女の愛らしい唇に挟まれていたストローがささっているのだ。僕の心臓はぐるんぐるんぐるんと、嵐の中の風車のように回るけれど、彼女は相変わらず無邪気に微笑みながら、僕のことを優しく見つめてくる。 「...いただきます。」 だから僕は、なんてことはないという顔をして彼女からドリンクを受け取り、何でもないという顔をして、彼女の唇に触れていたストローで、ドリンクを啜った。 「どうだ?」 「...おいしいです。」 タピオカミルクティーとかいう流行りの飲み物は、胸焼けがするくらい甘かった。タピオカとかいう黒い物体は、喉をするりとは通らず、一瞬、喉に詰まったような感覚を受ける。 彼女は、僕の感想に、実に嬉しそうに微笑んだ。 * それから、しばらく二人で話をした。学校の話だとか、お互いの家族の話だとか。 僕と彼女は家が近所の幼馴染で、現在、同じ高校に通っている。思春期特有の異性、特に特別に好意を持っている異性を避けるという甘酸っぱくも殆ど後悔しか残さないだろう行動はお互いにせず、僕たちは物心ついた頃から一緒にいる。 幼・小・中は問題なく同じ学校に通うことができたが、高校はさすがに苦労した。僕より一つ年上の彼女は学力的になかなかに優秀で、この辺りの地域で最も優秀だといわれる高校に進学したからだ。彼女と同じ高校に行くため、文系理系で成績に大いに差のあった僕は、今までの人生で一番と言っていい程に勉強に励んだ。彼女も、僕を応援してくれて、サポートもしてくれた。そして、無事、僕が同じ高校に合格した時は、自分のことのように喜んでくれた。本当はこの時に告白をしようと思っていたのだけれど、タイミングと、僕の意気地が上手く噛み合ってくれなかった。 僕はいい加減、ただの幼馴染をやめたい。今のところ、彼女に好きな男や彼氏だとかいう存在はいないようだけれど、彼女のことを想う連中がわんさかいるのは知っている。僕が出来る限り彼女の傍に張り付いているから、何もしてこないだけで。本当に、僕が同じ学校に通っていなかった間、よく何事もなかったものだ。 「そろそろ行くか。」 彼女はそう呟きながら、左肩に鞄を掛け、右手で空のドリンクの容器を持とうと手を伸ばす。 「悠離(ゆうり)さん。」 僕は、目の前のテーブルにあった、彼女の右手を握った。その拍子に彼女の人差し指だけが空のドリンクの容器にあたり、それは呆気なくテーブルの下に落ちたけれど、気にしている余裕はなかった。 「...壱碁?」 彼女は、握られた手を不思議そうに見てから、やっぱり不思議そうに僕の顔を眺めてくる。僕の気持ちは、何にも伝わっていない。魅力に溢れているくせに自己肯定感の高くない彼女は、人からの好意に嘘のように疎い。 だから、はっきりと、わかりやすく、伝えなくてはならない。心臓が、ばくんばくんと大きな音を立てる。 今、店には客は僕たちしかいない。店員はちょうど姿が見えない。この店は、小洒落た雰囲気の良い店で、僕が覚悟を決めて、彼女を誘ったのだ。タイミングは合っている。 「僕は、貴女が」 後は、僕が、意気地無しを捨てて、きちんと、勇気を出せばいいだけ。 彼女はさっきからずっと不思議そうに僕を見ている。色素の薄い黒なのか茶色なのかわからない綺麗な瞳には、純粋な疑問しか浮かんでいない。もう、わざとではないかと思う程に。 心臓の音が、収まらない。 「貴女のことが、ずっと、す」 「落ちてますよ。」 僕たちの仲を阻むように、知らない声が、響く。いつの間にか僕たちの他に、客が来ていたようだ。 パリッとしたスーツを来た男は、空のドリンクの容器を彼女に向かって差し出している様子だ。僕に背を向けているから、彼の顔も表情も、僕には何一つわからない。ただ、右手に持ったお盆には、ケーキが置かれているのが見えた。男一人で小綺麗な喫茶店に赴く程には、甘党なのだろう。 「...あ、ありがとう、ございます。」 この時の彼女の顔を、僕は忘れない。 雷に撃たれた、というのは陳腐だ。それは、今まで経験したことのない厄災を、いきなり目の前で見せられた、幼子のような顔、とでも言えばいいのか。とにかく、いつも無邪気に笑っている彼女には、あまりにも似合わない表情だった。 時が、止まったようだった。 彼女はさっきの顔のまま、惚けたように、男を見ていた。男は男で、空のドリンクの容器から手を離さない。 彼らの世界にはまるで、他に誰も存在しないかのようだった。ここに確かにいる筈の僕は、男はもちろん、彼女の視界にも、入ってはいない。 「......で、では、しつれい。」 「......は、はい、ありがとう、ございました。」 やっと、時は動いた。二人はぎこちなく言葉を交わす。男は、名残惜しそうな雰囲気で、その場を去っていった。彼女は何かを失ったような顔で、空のドリンクの容器を見つめていた。 「悠離さん、行きましょう。」 「......あ、あぁ。そうだな。」 やっと僕のことを見た彼女は、少しぎこちない笑顔で、そっとわらった。 僕は、なんでもないというように、彼女の右手を握ったまま、歩き始めた。 * 次の日は、学校が休みだった。 友人の多い彼女は、休日に誰かと出掛けることも多かったけれど、予定が何もなければ僕と過ごしてくれた。だから、約束はしそびれていたけれど、僕は朝一番に、彼女を訪ねた。 「あら、壱碁くん。おはよう。」 彼女の母親は、穏やかだが、少し不思議そうな顔で僕を迎えた。 「おはようございます。悠離さんはご在宅ですか?」 「...さっき、出掛けたわ。」 意外そうな顔で僕を見ながら続けられた彼女の母親の言葉に、僕の胸は、ひぅと音をたてて萎んだ。 「今日は、なんだが珍しく張り切ってお洒落をしていたの。だから、やっと、壱碁くんと付き合うようになって、デートでもするのかなと思ってたんだけど。」 * 僕は自分の部屋の窓から、ずっと外を眺めていた。ここからはよく、彼女の家の周りが見えた。 彼女は、思いの外、早く帰ってきた。まだ、陽は沈む気配さえ見せない。僕が彼女のデートの相手ならディナーまでは絶対に一緒に過ごすはず。だから、これは、デートではない。そう言い聞かせながら、僕は立ち上がり、部屋を後にした。 「悠離さん。」 自分の家に入ろうとしていたのか、鞄をごそごそとしていた彼女は、僕の呼び掛けに、すっと顔をあげた。この時間、彼女の家には誰もいない筈なので、家の鍵を探していたのだろう。 「壱碁。」 彼女は、僕を見て、そっとわらった。その顔は、いつもはしない化粧がうっすらと施されていて、無邪気な彼女を、随分と大人びて魅せていた。 「化粧なんてして。服も随分とお洒落ですね。お似合いです。」 少し童顔だが、どう見ても美しい彼女の顔に、化粧はよく栄えた。それに合わせたように、少し大人びた、女子大生や新社会人が着ていそうな、高校生には背伸びしたかのような服装も、見事に着こなしている。 「そうか。ありがとう。」 彼女はやっと、少しだけ嬉しそうに笑った。 もし、この背伸びのお洒落が僕のためのものだったら、彼女は花が咲き乱れるような顔で、僕に笑ってくれたんだろうか。 「壱碁、上がっていかないか?何か、用事があって来たんだろう。」 まるで誘っているかのような台詞も、僕たちにとっては当たり前だ。僕たちは幼い頃からお互いの家を行き来している。それは、両親が不在の時でも同じだった。 「そうですね、お邪魔します。」 だから、僕は呆気なく、彼女の家に上がり込んだ。 * 「昨日の男ですか。」 ご丁寧に僕の好きなロイヤルミルクティーを用意してくれた彼女に、僕は唐突に問い掛けた。 ここは、彼女の部屋。上がるのは、もちろん、はじめてではない。テーブルを挟んで向かいにいる彼女は、驚いたように目を見開いて、僕を見た。目の前のロイヤルミルクティーが、かたんと音を立てて揺れた。 「壱碁は、鋭いな。」 彼女は、諦めたようにふっと笑った。そのまま、自分の目の前に置いていたミルクティーをそっとかき混ぜた。 「知り合いだったんですか。」 「否、昨日初めて会った筈だ。」 「いつの間に会う約束なんてしていたんですか。」 「約束なんてしていない。ただ、昨日の場所に行ったら、会えるような気がしたんだ。」 「...会えたんですか。」 「会えたよ。」 彼女は、そう呟いて、微笑んだ。それは、恋する無垢な少女のようでいて、全てを達観した老女のようでもある笑みだった。 「彼も、私と同じ気持ちだった。」 「両想いってことですか。」 「まぁ、簡単に言えばそうなるのか。きっと、私たちは会えば惹かれ合う星のもとにあるんだろう。」 「...なんですか、それ。」 彼女は、随分と突拍子もないことを言う。だけど、冗談を言っている雰囲気ではないから、僕はからかうことさえできない。 「じゃあ、付き合うんですか、彼と。」 僕が自分で言った言葉が、重いパンチになって、襲いかかってくる。やっと意気地無しを捨てて、彼女に想いを伝えようとした僕の昨日の告白をまんまと邪魔した男が、めでたく彼女と付き合うことになるなんて。 「彼は、既婚者だった。」 「.........は。」 彼女は、すっとした顔と声で、そう言った。あまりに平然と口にするから、意味を理解するのに時間がかかった。 「昨日、左手の薬指に指輪があるのは、何となく気付いていたんだが。何処かで、気のせいだとか、フェイクだというのを期待していたんだろうな。」 彼女は、そう言って、呆れたように笑った。何だがとても痛そうな笑顔だった。 「じゃあ、彼は貴女に自分の愛人に甘んじろと、そう言ったということですか。」 腸がじわじわと煮えくり返る。 これは、彼女に対する侮辱だ。自分が本当に大事に想う相手を、そんな扱いにする訳はない。彼女は随分と彼に惹かれているようだけど、彼は、違う。彼にとって、彼女は、一時の遊びなんだ。オトナで既婚者で、今の生活に飽きがきた彼は、自分に好意を寄せてくる綺麗な女子高生に、少し手を出そうとしているだけなんだ。 「...まぁ、客観的に見たら、そうなるんだろうな。」 彼女は、呆れたように溜め息を吐いた。 「彼が言うには、確かに結婚はしているが、彼は相手を愛してはいないらしい。相手は勤め先の社長の娘で、気性の激しいところもあり、断ると面倒なことが多いから、のっただけだと。別れるのも面倒だし、そうなった場合、もしかしたら私に何か仕掛けてくる可能性もある。しかし、私のことは心底好きだと感じたし、手放したくない。だから、この状態のまま、付き合ってほしい、と、言われた。」 「......何ですか、それ。」 僕はもう、怒りでどうにかなりそうだった。 「そんなの、不倫男が無理矢理つけた屁理屈じゃないですか。馬鹿にしている。」 「そうだよな。」 彼女は、そう、悲しげな顔でわらった。 「そんなの、受け入れる訳にはいかない。だから、断って帰ってきたんだ。」 彼女は、ミルクティーを一口飲み、カップをそっと置いた。その表面が、少しだけ、ざわざわと揺れた。 「でもな、壱碁。」 彼女は、そっと目を伏せたまま、呟いた。ミルクティーの表面は、まだ、小刻みに震えている。彼女はカップの持ち手から、左手の指を離さない。 「私は一瞬、そんな扱いでも、彼といられるなら、それでいいと思ったんだ。」 彼女は、見たことのない程の沈んだ瞳で、カップの表面を見つめている。それはいつも無邪気な彼女には到底似合わない。だけど、酷く物憂げなその表情は、彼女を大層大人びた麗人に見せていた。 「どうかしている。話を聞く限り、彼の結婚相手は、彼のことを心底想っているようだ。私はそんな相手を貶め、一目で好きだと感じた彼を、みすみす裏切り者に仕立て上げるところだった。」 彼女はまるで、彼女自身が悪いような感じで話す。僕はそれが、心底面白くなかった。 「悠離さんは何も悪くない。どう考えても、その男が最悪です。結婚しているのに、他に、よりにもよって悠離さんに手を出そうとするなんて。そもそも、悠離さんが高校生って、その男は知ってる筈ですよね、制服姿を見たんだから。なのに、そんな馬鹿みたいな御託を並べて。堪え性がないんですよ、振ってやって正解です。」 「まぁ、落ち着いてくれ、壱碁。」 彼女は、少しだけ笑いながら言った。やっと、少し楽しそうな表情をしていたから、僕はちょっと嬉しくなった。 「そもそも、その男は社会人で、貴女は高校生。歳の差も十近くあるんでしょう。その男は、若くて飛び抜けて可愛い貴女が、自分に好意を仄めかす目を向けてきたから、ちょっとその気になっただけです。すでに結婚もしているようですし、少しクラっとしただけでしょう。はじめから、上手くなんていく訳ないんです。そもそも未成年である貴女に手を出して、あろうことか愛人に甘んじさせようとするなんて。貴女に、相応しい男ではなかったんです。」 彼女は、ぼんやりとした顔で、僕のことを見ていた。彼女の左指が持つカップは、まだ小刻みに震えている。 「そう、だよな。壱碁の言う通り、だと、思う。だけど、私は、まだ」 彼女は、そっと瞬きをして、目を伏せた。その時、瞳から滴が一粒、垂れたように見えた。 「彼のことが、心底好きみたいだ。」 頭を鋭利な鈍器で殴られたような感覚。殴られたような鈍い痛みと、何かが刺さったような鋭い痛みが、身体中を支配する。 「...ごめんなさい。貴女が好きだと思う人の、悪口を言いました。」 「否、壱碁は悪くない。きっと、私がおかしいんだろう。」 彼女はそう言って、立ち上がった。そのまま背を向けるから、どんな顔をしているのかはわからない。 「お手洗いに行く。ゆっくりしておいてくれ。」 そう言い捨てて立ち去ろうとする彼女の左手を、僕はとっさに掴んでいた。 「...壱碁?」 彼女は、僕の方を見ないまま、不思議そうに僕の名を呼ぶ。 「僕は、可愛い彼女が欲しいんです。」 「...そう、か。」 彼女はやはり不思議そうに呟く。 「僕だって、健全な男子高校生ですから。恋愛に興味があるし、彼女だって欲しいんです。でも、誰でも言い訳じゃない。僕は面食いなんで、綺麗で可愛い子じゃないと嫌だし、スタイルも気立ても性格も全部良い方がいいんです。奇遇にも、貴女は全部あてはまっている。だから、貴女となら、僕は付き合いたい。貴女が好きだからとかじゃないんです。僕の理想にあてはまるからです。貴女じゃないといけない訳じゃない。条件に合うから、利用したいだけです。だから、貴女も、僕を利用して下さい。」 半分は本当で、半分は嘘だった。 彼女が綺麗で可愛くてスタイルも気立ても性格もいいのは本当だけど、だから彼女と付き合いたい訳じゃなかった。僕は、彼女が好きだ。同じような条件を持った人がいたとしても、僕は興味なんて抱かない。彼女だから僕は好きだし、付き合いたいし、幸せでいてほしいし、笑っていてほしい。でも、そんなことを言えば、彼女は僕の気持ちを受け入れてはくれない。自分は、同じ気持ちを返せないからと、僕は呆気なく振られるんだ。彼女は、そういう人なのだ。 「別に、僕のことを好きじゃなくていいんです。僕だって、貴女のステイタスに惹かれているだけなんですから。...僕は、なかなかいい男ですよ。学力面はムラがありますが、それを努力で補える気概はあります。体力はある方で、運動は得意です。顔は格好いい方だと、貴女の同級生が言っていたそうじゃないですか。何より、僕は恋人には特に優しいですよ。一生、あな...恋人を大事にして、ともに幸せに生きていけるように努めます。あな...恋人を蔑ろに、ましてや二番手におくなんて、絶対にしません。ずっと、あな...恋人のことだけです。」 だから、僕は、愛の告白に嘘を混ぜる。 タイミングは最悪だ。傷心の彼女につけこむなんて、最も卑劣だろう。相変わらず僕は意気地無しだけど、ここで、彼女の手を離すわけにはいかない。黙って一人で泣かせたくはない。 この告白では、僕の彼女への恋心は伝わらない。それでいい。彼女だけが特別だという気持ちが、伝わらなくてもいい。ただ、彼女の心を少しでも癒せて、軽くできるなら、それでいい。 「だから、僕と付き合いましょう。僕なら歳も近いし、健全なお付き合いができます。貴女が、きっと彼から欲しかっただろう言葉も行動も、僕は全部あげますよ。そういう、ロマンチックなの、好きなんです。可愛い彼女がいたら、めちゃくちゃに優しく甘やかしたいなと思っていたんです。貴女が僕の恋人なら、僕はおもいっきり自慢できる。知らないでしょうけど、貴女は僕の学年の男の中でも、人気があるんですよ。僕は、一気に羨望の的です。周りに自慢できる可愛い彼女、ずっと欲しかったんです。だから、これは僕のためです。僕の矜持のためです。だから、貴女も僕を利用して、貴女が、彼にしたかったことを僕に」 「壱碁。」 彼女はやっと、僕の方を見た。細められた目からは、感情は読み取れない。しかし、その笑みは、まるで聖母のように、底抜けに優しかった。 「本当に、君は、驚く程に優しく、いい男なんだな。」 彼女は、僕の前にしゃがんで、頭をそっと撫でてくる。 僕に寄り掛かって。すがり付いて。いっそ、あの最悪な男の代わりでいい。突然現れた癖にあっという間に彼女の心を奪った憎い男に、僕を置き換えてくれて構わない。それでもいいから、僕を恋人に選んで。 そしたら僕はこれからも貴女の傍で、生きていける。貴女が幸せで、笑って生きていけるように努めて、僕もそれを傍で見ていられる。そのためなら僕はなんだってする。 本当は貴女だけにしか向けていない恋心だって、巧く隠してみせる。 だから、どうか、僕を選んで。 僕はまだ彼女の左手を握ったままの手に、ぎゅっと力を込めた。
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