episode④-1 ナナコ

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episode④-1 ナナコ

雨はすっかり上がり、 太陽が顔を出していた。 ユノは小高い丘の上にある 大木の枝に腰かけていた。 別に太陽の日差しが苦手なわけではないが、 大木のそばにいることで ジェイが嗅ぎ付ける自分の匂いを 紛らわせることができるのもあった。 夜になるまでは、ここにいよう。 丘のふもとに街が広がっている。 あの街に降りてみるか…。 なぜかそう思った。 人間の数が多ければ多いほど、 匂いを消しやすくはなるが、 その分危険を伴うことも多い。 なのに、今は人間の中に 自分の身を置きたかった。 こんな気持ちになったのは初めてだ…。 ユノはゆっくりと自分の羽根を広げてみた。 また純白の羽根が増えている…。 漆黒の羽根の中にあるそれは、 とても不思議な光景でもあった。 俺の体に…何が起きていると いうんだろう…?? 夜になるのを待って、 ユノは街に降りた。 賑やかな通り。 大勢の人や車、ネオンの光…。 今の自分には なんだかこの環境が逆に落ち着くような そんな気がしていた。 通りを歩くユノの前に 女が1人、後ろを振り向きながら 足早に歩いていた。 ユノの後ろから 男がすり抜けていくと、 前方を歩く女の腕を掴む。 「いやぁっ!!」 必死で抵抗する女。 男が…何か持っている…? そしてこのイヤな匂いは…?? ユノは男の背後に近づくと 男の手を後ろにねじ上げた。 「いててて…何しやがる!!」 男の手から落ちるサバイバルナイフ。 男は腕の痛みに悲鳴を上げて女の腕を離した。 そのまま倒れこんだ女は気を失った。 「覚えてろ!!」 男は捨てゼリフを吐きながら 逃げ出した。 これがユノがナナコに会った 初めての夜だった…。
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